『管見妄語 知れば知るほど』 藤原正彦
《悪い奴》
そう言った場合、日本では、相手を否定したことにならない場合が、往々にしてあります。男が男に対してそう言った場合、それによって人に被害を与えることを非難しつつも、それを思いついた発想力、行動に移した決断力を評価しているようにも受け取れます。女が男に対して、「悪い男(ひと)ね」なんて言った日には、意味は完全に逆立ちしてしまいます。・・・連れ合いから役立たず扱いされている私にすれば、憧れの言葉でさえあります。
これが、《きたねぇ奴》ということになると、完全に相手を否定したことになります。意味合いの逆立ちはありえない、これ以降の付き合いは、まったくありえないことになります。
そう、日本人は美醜で物事を判断しています。善悪において悪であろうと、力の強弱において弱であろうと、能力の高低において低であろうと、その人が排除されることはありません。しかし、美醜を基準にして醜と判断されれば、多くの場合その人は排除されます。
何が《きたねぇ》という判断につながるかと言えば、嘘つき、強欲、卑怯、浅ましい、えげつない、さもしい、そういった諸々が一人の人間の言行ににじみ出る時、日本人はその人を「きたねぇ奴」と切って捨てます。
著者の藤原さんは、白鳳の汚い立合いを取り上げて、「それが白鵬には理解できない」と言ってます。理解できないままに、彼は今年の9月に日本国籍を取得しました。「相撲の発展のために頑張りたい」と言っているそうですが、日本人の心のあり方を理解できないままにこの先の長い人生を日本人として生きていくことは、彼にとっても相撲界にとっても不幸なことにならなければいいんですが。


週刊新潮に掲載されている藤原正彦さんのコラムを、一冊にまとめたのがこの本です。
この『知れば知るほど』は第7弾、この本は、主に2016年の週刊新潮に掲載されたものだそうです。この年はベッキーの不倫、甘利大臣の収賄、ショーンK経歴詐称、清原選手の覚醒剤などの出来事があった年だそうです。
そして、私が足の手術をしたのも、この年です。10月の末に手術を受けて、11月の米大統領戦でトランプが勝利した顛末は、リハビリを繰り返す病院の待合室のテレビで知りました。その5ヶ月前の6月には、イギリスがEU離脱を決めました。そうそう、そのEU離脱。ブレグジット期日は10月31日。もう、まもなくです。
東日本大震災における原発事故で、イギリスは事故発生の3日後には専門家チームを編成して、在日イギリス人向けに危険度を科学的かつ具体的に説明していったそうです。
この事故はチェルノブイリとは本質的に違うこと、最悪のケースを考えたとしても、東京で二日間ほど家にこもっていれば大丈夫であること、東京都の支持に従って水は摂取しても良いことなどを伝えていたそうです。
それとは対象的な反応を示したのがドイツだったそうです。“第二のチェルノブイリ”と決めつけ、「それ以上」と人々を煽ったそうです。花粉症のマスクを付ける日本人を放射能に怯える人々と伝え、大使館員や特派員を大阪やソウルに避難させたそうです。
イギリスが専門家チームの情報を流し始めた事故から3日後の翌4日後には、メルケル首相は国内17基の原発のうち8基を稼動中止とし、その後、原発完全廃止を全政党指示のもとに決定しました。
今、ドイツの美しかった田園の多くに太陽光パネルや風車が並べられているそうです。うちの近所にある東京電機大学みたいなことをやってますね。
3年前の、イギリスのEU離脱決定は、僅差によるものでした。それは経済的損失があるからで、本音では大多数のイギリス人が、ドイツの支配するEUから離れたがっているという藤原さんの意見は間違いないところでしょう。
私も、かなりの経済的損失があったとしても、ドイツから距離を置くことに賛成です。「ドイツ人はどんな小さな過ちも犯さない。犯すのは最大級の過ちだけだ」というのは、歴史の証明するところです。
《管見妄語》の連載は、残念ながらすでに終了してしまいました。単行本化は『知れば知るほど』に続き、第8弾の『失われた美風』が出ています。でも、第7弾までを文庫本で読んでるもんですから、第8弾も文庫が出るのをまとうと思います。
そう言った場合、日本では、相手を否定したことにならない場合が、往々にしてあります。男が男に対してそう言った場合、それによって人に被害を与えることを非難しつつも、それを思いついた発想力、行動に移した決断力を評価しているようにも受け取れます。女が男に対して、「悪い男(ひと)ね」なんて言った日には、意味は完全に逆立ちしてしまいます。・・・連れ合いから役立たず扱いされている私にすれば、憧れの言葉でさえあります。
これが、《きたねぇ奴》ということになると、完全に相手を否定したことになります。意味合いの逆立ちはありえない、これ以降の付き合いは、まったくありえないことになります。
そう、日本人は美醜で物事を判断しています。善悪において悪であろうと、力の強弱において弱であろうと、能力の高低において低であろうと、その人が排除されることはありません。しかし、美醜を基準にして醜と判断されれば、多くの場合その人は排除されます。
何が《きたねぇ》という判断につながるかと言えば、嘘つき、強欲、卑怯、浅ましい、えげつない、さもしい、そういった諸々が一人の人間の言行ににじみ出る時、日本人はその人を「きたねぇ奴」と切って捨てます。
著者の藤原さんは、白鳳の汚い立合いを取り上げて、「それが白鵬には理解できない」と言ってます。理解できないままに、彼は今年の9月に日本国籍を取得しました。「相撲の発展のために頑張りたい」と言っているそうですが、日本人の心のあり方を理解できないままにこの先の長い人生を日本人として生きていくことは、彼にとっても相撲界にとっても不幸なことにならなければいいんですが。
『管見妄語 知れば知るほど』 藤原正彦 新潮文庫 ¥ 539 国民が知らされる情報には常に偏向がある。私目を凝らして実像を見抜かねばならない |
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週刊新潮に掲載されている藤原正彦さんのコラムを、一冊にまとめたのがこの本です。
この『知れば知るほど』は第7弾、この本は、主に2016年の週刊新潮に掲載されたものだそうです。この年はベッキーの不倫、甘利大臣の収賄、ショーンK経歴詐称、清原選手の覚醒剤などの出来事があった年だそうです。
そして、私が足の手術をしたのも、この年です。10月の末に手術を受けて、11月の米大統領戦でトランプが勝利した顛末は、リハビリを繰り返す病院の待合室のテレビで知りました。その5ヶ月前の6月には、イギリスがEU離脱を決めました。そうそう、そのEU離脱。ブレグジット期日は10月31日。もう、まもなくです。
東日本大震災における原発事故で、イギリスは事故発生の3日後には専門家チームを編成して、在日イギリス人向けに危険度を科学的かつ具体的に説明していったそうです。
この事故はチェルノブイリとは本質的に違うこと、最悪のケースを考えたとしても、東京で二日間ほど家にこもっていれば大丈夫であること、東京都の支持に従って水は摂取しても良いことなどを伝えていたそうです。
それとは対象的な反応を示したのがドイツだったそうです。“第二のチェルノブイリ”と決めつけ、「それ以上」と人々を煽ったそうです。花粉症のマスクを付ける日本人を放射能に怯える人々と伝え、大使館員や特派員を大阪やソウルに避難させたそうです。
イギリスが専門家チームの情報を流し始めた事故から3日後の翌4日後には、メルケル首相は国内17基の原発のうち8基を稼動中止とし、その後、原発完全廃止を全政党指示のもとに決定しました。
今、ドイツの美しかった田園の多くに太陽光パネルや風車が並べられているそうです。うちの近所にある東京電機大学みたいなことをやってますね。
3年前の、イギリスのEU離脱決定は、僅差によるものでした。それは経済的損失があるからで、本音では大多数のイギリス人が、ドイツの支配するEUから離れたがっているという藤原さんの意見は間違いないところでしょう。
私も、かなりの経済的損失があったとしても、ドイツから距離を置くことに賛成です。「ドイツ人はどんな小さな過ちも犯さない。犯すのは最大級の過ちだけだ」というのは、歴史の証明するところです。
《管見妄語》の連載は、残念ながらすでに終了してしまいました。単行本化は『知れば知るほど』に続き、第8弾の『失われた美風』が出ています。でも、第7弾までを文庫本で読んでるもんですから、第8弾も文庫が出るのをまとうと思います。

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