『冬つまみ』 重信初江
火鉢に炭を起こし、五徳に昆布を一枚敷いた鍋をかけて、大きめに切った豆腐を一個ずつ温め、ふるふるしたのをポン酢で食う。
ポン酢と言っても、長女の亭主の実家、徳島から送ってもらったすだちを絞って醤油を垂らしただけのやつ。すだちはずいぶんたくさん送ってもらった。三分の一くらい絞ったが、すでにペットボトル四本になっている。ポン酢で湯豆腐食ってるくらいじゃ、とても消費できるはずもない。
連れ合いは、いっそのこと、そのまま飲むと言い出す。いくらなんでも、そりゃ下品と言うもんじゃないかと自制を促すが、かと言って良い消費方法を思いつくわけでもない。
焼酎に入れる。秋刀魚にかける。・・・だめだ。発想を切り替えなければ・・・。ジャムやゼリーっていうのはガラじゃない。かけるにしても、秋刀魚以外にも魚類全部、おひたし、刺し身、天ぷら、鍋全部、焼き肉、焼いた野菜やきのこ。いっそのことご飯にかけてしまえ。さらに一歩前に出て、お風呂だ。ゆず湯じゃなくて、すだち湯だ。
・・・失礼しました。
すだちも季節のもの。かけて食べる素材も当然、その季節にうまいものですね。今朝はしいたけを焼いて、絞ったすだちをかけて食べました。朝から一杯やりたくなってしまいました。


『冬つまみ』とは、ずいぶんな題名をつけたもんだ。これじゃあ、私みたいな呑助は、もうたまらない。こんな時期になってくると、あったかいものはもちろん、熱々のものが恋しくなってくる。ここから先、春先までそんな感じが続く。その間、しばらくこの本の世話になりそうだ。
冒頭に書いたけど、豆腐は、私にとってもやはり定番。司馬遼太郎の《花神》の主人公大村益次郎が、まだ村田蔵六でしかなかった頃、彼は飲みに行くと、必ず豆腐を、それも冷奴をつまみにしていたという。なにか、他のものを注文するということはなかったそうだ。
そこまでの変わり者じゃないけど、私もとりあえず豆腐があればなんとかなる。若い頃よく通った《健康亭》という飲み屋があって、仕事の帰りに寄って、「腹減ったー」っていうと、すりおろした長芋と鳥のひき肉をお下地で味付けをして熱々にして、それを温めた豆腐一丁にかけて出してくれた。それを半分くらい食って、それからお燗した酒に移った。
この本にも、《豆腐で一杯》と称する一章がある。しかも、それ以外の章でも、豆腐は何度となく顔を出す。豆腐は、けっして冬限定の食材ではないが、やはり冬に豆腐がなければ、こんなにもさびしいことはない。どっちかと言われれば、・・・やはり冬だ。
なかに《温泉湯豆腐》という、なんとも人間がだめになりそうな名前をつけられた豆腐料理が出てくる。湯豆腐には変わりなく、昆布だしに豆腐を泳がせてポン酢で食うんだけど、だしに豆乳と重曹を加えるんだ。
佐賀県の嬉野温泉名物の温泉水で作った湯豆腐をもとにした料理で、重曹を加えることで豆腐の角が溶けて、トロトロに仕上がるんだそうだ。まずは人間がだめになる前に、豆腐を方を愚図にしちゃうわけだな。
ああ、もう幻聴が聞こえる。こうしていても聞こえる。・・・ぐつぐつ、ぐつぐつ、ぐつぐつ、ぐつぐつ、ぐつぐつ、ぐつぐつ。
ほら、もうそこまで来ている。
ポン酢と言っても、長女の亭主の実家、徳島から送ってもらったすだちを絞って醤油を垂らしただけのやつ。すだちはずいぶんたくさん送ってもらった。三分の一くらい絞ったが、すでにペットボトル四本になっている。ポン酢で湯豆腐食ってるくらいじゃ、とても消費できるはずもない。
連れ合いは、いっそのこと、そのまま飲むと言い出す。いくらなんでも、そりゃ下品と言うもんじゃないかと自制を促すが、かと言って良い消費方法を思いつくわけでもない。
焼酎に入れる。秋刀魚にかける。・・・だめだ。発想を切り替えなければ・・・。ジャムやゼリーっていうのはガラじゃない。かけるにしても、秋刀魚以外にも魚類全部、おひたし、刺し身、天ぷら、鍋全部、焼き肉、焼いた野菜やきのこ。いっそのことご飯にかけてしまえ。さらに一歩前に出て、お風呂だ。ゆず湯じゃなくて、すだち湯だ。
・・・失礼しました。
すだちも季節のもの。かけて食べる素材も当然、その季節にうまいものですね。今朝はしいたけを焼いて、絞ったすだちをかけて食べました。朝から一杯やりたくなってしまいました。
『冬つまみ』 重信初江 池田書店 ¥ 1,100 寒いからこそ旨いつまみ 秋の夜長や冬の一杯をおいしくする酒の肴集 |
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『冬つまみ』とは、ずいぶんな題名をつけたもんだ。これじゃあ、私みたいな呑助は、もうたまらない。こんな時期になってくると、あったかいものはもちろん、熱々のものが恋しくなってくる。ここから先、春先までそんな感じが続く。その間、しばらくこの本の世話になりそうだ。
冒頭に書いたけど、豆腐は、私にとってもやはり定番。司馬遼太郎の《花神》の主人公大村益次郎が、まだ村田蔵六でしかなかった頃、彼は飲みに行くと、必ず豆腐を、それも冷奴をつまみにしていたという。なにか、他のものを注文するということはなかったそうだ。
そこまでの変わり者じゃないけど、私もとりあえず豆腐があればなんとかなる。若い頃よく通った《健康亭》という飲み屋があって、仕事の帰りに寄って、「腹減ったー」っていうと、すりおろした長芋と鳥のひき肉をお下地で味付けをして熱々にして、それを温めた豆腐一丁にかけて出してくれた。それを半分くらい食って、それからお燗した酒に移った。
この本にも、《豆腐で一杯》と称する一章がある。しかも、それ以外の章でも、豆腐は何度となく顔を出す。豆腐は、けっして冬限定の食材ではないが、やはり冬に豆腐がなければ、こんなにもさびしいことはない。どっちかと言われれば、・・・やはり冬だ。
なかに《温泉湯豆腐》という、なんとも人間がだめになりそうな名前をつけられた豆腐料理が出てくる。湯豆腐には変わりなく、昆布だしに豆腐を泳がせてポン酢で食うんだけど、だしに豆乳と重曹を加えるんだ。
佐賀県の嬉野温泉名物の温泉水で作った湯豆腐をもとにした料理で、重曹を加えることで豆腐の角が溶けて、トロトロに仕上がるんだそうだ。まずは人間がだめになる前に、豆腐を方を愚図にしちゃうわけだな。
ああ、もう幻聴が聞こえる。こうしていても聞こえる。・・・ぐつぐつ、ぐつぐつ、ぐつぐつ、ぐつぐつ、ぐつぐつ、ぐつぐつ。
ほら、もうそこまで来ている。

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