めんどくせぇことばかり 『生還者』 下村敦史
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『生還者』 下村敦史

舞台はカンチェンジュンガ。

標高8586mは、エベレスト、K2に次いで3番目。挑戦者の死亡率の高い山で、エベレストの4%に対して、カンチェンジュンガは22%。すでに、舞台はカンチェンジュンガであると言うだけで、誰かが命を落とす物語であることがはっきりするような山なわけだ。

冒頭から、積雪が液状化したような、雪山の半分が滑り落ちるような雪崩で、この物語は始まる。日本人登山者7名が、この雪崩に巻き込まれる。7名の内、4名の遺体は早々に発見された。その中に、この物語の主人公増田直志の兄、謙一の遺体も含まれていた。

兄の遺品を片付けるうち、直志は兄がカンチェンジュンガで使っていたザイルに細工がされているのに気づく。彼は兄の遭難に疑問を持ち始める。生存が絶望視された中、ひとりの遭難者の生還が確認された。奇跡の生還を果たした彼は、兄たちのパーティーに見捨てられた、見殺しにされるところだったと語った。そんな自分が生還できたのは、いまだに発見されていない最後の一人に助けられたからだと語った。最後のひとりは、兄たちパーティーのメンバーとたもとを分かってまで自分の命を救ってくれたと。

世間は、兄たちの非道を詰り、自業自得、天罰という声まで聞こえた。

だがその後、もうひとりの生還者が現れる。兄たちのパーティーのメンバーで、その証言は最初の証言者のものと真っ向から食い違っていた。その最後のひとりこそ卑怯者で、この遭難の責任はすべて彼にあると。

この遭難の背景には、過去に起こったもう一つの遭難事件が関係している。その過去の遭難に、兄謙一は深く関わり、それが原因で、彼は全く山を離れた。完全に山を離れたはずの兄が、なぜヒマラヤの高峰の中でも危険度の高いカンチェンジュンガに挑戦したのか。過去の遭難事件こそが、謙一がカンチェンジュンガに登らなければならない理由だった。

このくらいにしておこう。なにしろ、山岳ミステリーだからね。いくらなんでもネタバレはまずい。

『生還者』    下村敦史

講談社文庫  ¥ 792

兄の死は事故か、それとも・・・。ヒマラヤを舞台にいくつもの謎が絡み合う傑作山岳ミステリー
二人の生還者はどちらが真実を語っているのか?
兄の死の真相を突き止めるため、増田は女性記者の八木澤とともに高峰に隠された謎に挑む!


山をやってる人にも、嫌な人はいくらでもいる。

道端でおしっこしちゃう人。これはいる。男だけじゃなく、女の人でもいる。とある山頂で、私がいるにも関わらず、景色を眺める私の後ろで、お尻を出しておしっこはじめたご婦人がいた。ジャーという音に後ろを見ると、まあるいお尻が見えた。終わると、何ごともなかったかのように、平然と山頂を通り過ぎていった。どうしたってしたくなることはある。山じゃトイレがないことも多い。仕方がないことだから、形だけでも薮に入ればいいのにね。

がれ場で、ガラガラ石を転がしながら歩いている人。落石に無頓着すぎる。これは高校生と山に登る時、口が酸っぱくなるくらい注意した。でも、がれ場をガラガラ歩く人って本当にいるから怖い。

息を上げながら登っている時、前からくる人が勢いよく下ってくる。まるで、お前が道を開けろって、勢いで示しているかのような人。石の下にゴミを隠す人。岩の間に吸い殻を押し込む人。ザックのポケットに野草を刺している人。

でも、昔に比べると、山に来る人のマナーは遥かに良くなった。山岳部なんかどうなんだろう。昔はひどかった。山岳部にはいじめがつきものだった。いい人もいたんだけどね。ひとつ上の人から、あからさまにいじめられた。どうにも我慢できなくなって、私は復讐をした。食当だった私は、彼に、人が本来口に入れてはならないものを食わせた。

それ以降もいじめは続いたが、ちっとも悔しくなくなった。平然と受け止めて、彼に、本来口に入れてはならないものを食わせた。時期に彼がいじめをしなくなったのは、なにかに気がついたのかも知れない。

もしかして、本来口に入れてはいけないものが、いい薬になったのかも知れない。

ただ、何人かの先輩を彼の道連れにしてしまったことは、今でも心が痛い。

この物語、当初、山で遭難者に出会った時に取るべき行動ってのが問題になっている。昔からあるテーマだと思う。遭難者に会うかどうかはともかく、誰がより重い荷物を担ぐのか、弱い人達には分け合うべきなのかどうかとか、山では人間性があからさまにされる機会が、一般社会よりも多い。ずるい人はいくらでもいる。私もそのひとり。でも、本質的に悪いやつっていうのは、幸運なことに今までお目にかかった試しがない。

この話、クライマックスに向けて、どんどん読めてしまう。そうなったらもう止められない。止まらなくなった時、止まらなくなってもいい環境にいればいい。止まらなくなってはいけない環境にいたら、それは不運と言うしかない。

ただ、この物語の終わり方、私はちょっと作りすぎの気がした。どちらの本が先なのか知らないけど、この間読んだ『失踪者』の方が後味が遥かに良かった。その感じ方は人それぞれかも知れないが。




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ジャンル : 本・雑誌

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この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
やられた本






















































































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