めんどくせぇことばかり 『新 青春の門 第九部 漂流篇』 五木寛之
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『新 青春の門 第九部 漂流篇』 五木寛之

参った小説だったんだ。・・・私にとってね。

そう感じている人間は、決して少なくないと思うよ。1960年生まれだから、第一部の『筑豊篇』が単行本で出た1970年は10歳だ。もちろん10歳では読んでない。だけど、高校生の兄は読んだようだ。家にこの本があったんだ。私が何歳の時にその本が読んだのか、ちゃんと覚えているわけではないが、高校に入る前には、もう読んでいた。

そういうケースって、少なくないと思うんだよ。兄や姉、叔父や叔母が読んだ本が家に置いてあって、その本を読むにお似合いの歳よりも、だいぶ早い段階で読んでしまうってこと。しかも、歳は不似合いにもかかわらず興味関心の方向性が一致していたりすると、もうこれは参ってしまうわけだ。

私にとっては『青春の門』、それから漫画の『影狩り』だ。

『影狩り』は面白かった~。十兵衛と月光と日光の三人ね。日光が女に弱くてね。お約束のようにそういうシーンが出てくるわけだ。この『影狩り』にしろ、『青春の門』にしろ、完全に悪いことをしているような気分で読んでたからね。隠れてね。

歳相応の大学生になるまえに、すでに主人公の信介は“堕落篇”の中にあった。そして1980年、二十歳の時の『再起篇』までは追いかけるようにして読んでいた。この『再起篇』が第六部。

ずいぶん間をおいて、1993年に第七部の『挑戦篇』っていうのが出てるんだ。・・・33歳の時か。下の子が生まれた年か。記憶にない。おそらく読んでない。さらにずいぶん間をおいて、2016年に第八部『風雲篇』ってのが出てるんだ。・・・知らなかったな。そっちを知らない間に、この『漂流篇』を読んでしまった。

五木寛之さんだって、久しぶりに伊吹信介や牧織江のことを書いているんだろうけど、私は第六部『再起篇』以来の伊吹信介や牧織江のことを読んでいるわけだ。二十歳で読んでいた信介や織江を、今は59歳の私が読んでいる。

これはなんとも変な気分だ。



講談社  ¥ 1,980

シベリアで学びと思索の日々を送る信介、新しい歌を求めてチャレンジする織江
バイカル湖への道
シベリア無宿
差別のない世界
伝説のディレクター
オリエの涙
夜の酒場にて
新しい年に
シベリア出兵の幻
ロマノフ王朝の金塊
福岡への旅
オリエの告白
嵐の前夜
ルビヤンカの影
《二見情話》の夜
艶歌の竜
奇妙な報せ
二人きりの生活
川筋者の末裔
破綻から生まれたもの
暗黒の海から


話はまだ、1961年。

私の生まれた次の年だ。懐かしい時代が書かれていることになる。貧しい時代だけに、人々はいろいろな工夫をして生きていた。それらの工夫の中には、今の人が聞けば、驚くようなものも少なくない。

すでに高度経済成長が始まっている。経済成長によって豊かになるにつれ、生きていくためにやむを得ず行われていた工夫のいくつかは、誰も知らないうちに捨て去られていく。

ある意味じゃあ、難しい時代でもある。慣れ親しんだ懐かしい貧しさと、まばゆいばかりの豊かさが同居していた。

五木寛之さんも、この第九部『漂流篇』でそれを匂わせようとしたんじゃないかと思う。

バイカル湖のほとりの町まで漂流した信介は、雌伏の時を送っている。この『漂流篇』を通してそれは変わらない。織江は歌手を目指した。そのレコード業界に変化の兆しが現れる。その変化の兆しに、織江は深く関わることになる。織江が関わったレコード業界の変化の兆しに、実は信介も帰国して関わっていくことになりそうだ。

その変化の兆しは、貧しい時代と豊かな時代の狭間で動き始める。懐かしい時代と、まだ見ぬ時代の狭間で。

さてさて、私にとって『青春の門』は参った小説なんだ。しかし、かつて同じような年代だった信介は成長して私よりも年上になり、再び同じような年齢になったが、・・・。

私にとって参った小説だった『青春の門』は、そこで終わった。今、信介と織江はあの頃のまま。私は59歳になった。信介の母タエでも出てくるならまだしも、“参った小説”としての『青春の門』として付き合っていくのは無理だろう。

どんな付き合い方になるのか。それはこの『漂流篇』だけでは判断がつかない。




 
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ジャンル : 本・雑誌

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こんちはー

『堕落篇』で停まってましたー。
え、その後そんなに出ているんですか。
五木さん、第22部まで書く、と断言していたことがありました。
「完」までに、著者と読者どちらが先に逝くか、ですよねぇ。

つかりこ さま

コメントありがとうございます。

22部までは、どう考えても・・・。妖怪化して書いてもらうしかありませんね。
あっ、そしたら、こちらも妖怪化して読まなきゃですね。

ありがとうございました



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こんな本、あんな本


この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
やられた本








































































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