『大局を読む』 長谷川慶太郎
ウォール街で株価大暴落が起こった1929年、アメリカのGDPの年間伸び率は5%。
後に「暗黒の木曜日」と呼ばれるようになる10月24日をきっかけとして、恐慌は世界に拡大し《世界恐慌》と呼ばれるようになる。長谷川さんは、この恐慌の中で国内産業を保護するためにスムート・ホーリー法を成立させたと書いているが、たしかその法案の審議自体は恐慌発生以前じゃなかったかな。だとすれば、その法案のが審議され、まもなく発効する段階で、株価大暴落が起こってることになる。スムート・ホーリー法は世界恐慌の原因と言うことだ。
元凶はアメリカだ。
第一次世界大戦後、アメリカ経済への依存度を高めていたヨーロッパは、すぐにその影響を受けた。イギリスでは1931年には構内の失業者が300万人近くになったそうだ。マクドナルド政権は1932年にオタワ会議を開き、イギリス連邦内の自治領tの経済的結束を強化し、その分、外部からの輸入品にかける関税を高止まりさせた。
フランスもならって、世界は保護貿易主義を色濃くし、ブロック経済に突入して、世界経済を縮小させた。これが第二次世界大戦の大きな要因の一つとなる。
アメリカの1929年におけるGDP伸び率が5%。それが、イギリスが保護貿易主義に転じた1932年にはマイナス15%。1929年に比べて20%下振れした。
今回の米中貿易戦争もそんな事態を引き起こすのか。
長谷川さんは、それはないと言っている。2019年7月にTMFが公表した経済見通しによると、2019年の世界経済成長率は前年比0.4%減の3.2%になったものの、2020年は前年比0.3%増の3.5%に回復するというものだったという。
アメリカの、2019年の成長率は前年比0.3%減の2.6%。2020年は前年比0.7%減の1.9%。“中国”も2019年が前年比0.4%減、2020年が前年比0.2%減。両国とも減少に転じるのはたしかだけど、世界恐慌の時とはほど遠い。


こういう風に数字で見るとわかりやすい。たしかに、米中がお互いに追加関税を掛け合っても、両国ともさほど成長率が下がらない。さらには、日本経済の成長率はというと、2019年が前年比0.1%贈の0.9%、2020年が前年比0.5%減の0.4%に低下する。消費税率引き上げを考えれば、米中貿易戦争の余波による打撃が大きいとは言えない。
貿易戦争の影響はさほど大きくない理由は、グローバル化が進んでも米中ともに輸出に頼った経済構造にはなっていないことにあるようだ。貿易戦争が始まる前の2017年の実績によれば、アメリカのGDPに占める輸出の割合は7.9%、“中国”のそれは18.9%となっている。ちなみに日本は14.4%。輸出よりも、実際には内需の方が国内経済への影響が大きい経済構造になっている。
米中の輸出が多少不振に陥っても、国内経済への影響はさほど大きくない。しかも、戦前のブロック経済が陣営外のすべての国に高関税をかけたのに対し、今回はそうではない。米中間の輸出入の動きが高関税によって悪くなっても、それ以外の国との輸出入の流れは悪影響は受けない。
悪影響は受けないが、うれしい影響が出る国が出てくる。
米中貿易戦争においては、産業別で一番大きな影響を受けるのが電子・電気産業で、アメリカではマイナス12.4%、“中国”ではマイナス7.5%となる。この分野ではもともと関税が低かったので、それが25%に引き上げられた影響が大きい。一方、そのおかげで日本、韓国、台湾、ASEAN諸国、インドの電子・電気産業は全体で2.8%のプラスになるそうだ。
アメリカの高関税を回避するため、アメリカ向け製品の生産が“中国”から、さらに人件費の安いASEAN諸国に切り替わるきっかけになれば、ASEAN諸国の漁夫の利は、さらに大きなものになる。
日本はどうか。日本に“中国”から工場が移ってくることはないから、利益はないのか。
日本が強いのは、グローバル・サプライチェーンという分野なんだそうだ。原材料・素材・部品の調達、生産、物流、流通、販売まで一連のつながりでグローバルに展開すること。アメリカ向け製品の生産が“中国”からASEAN諸国に変われば、そこにつながるサプライチェーンも切り替わる。それが可能なのは日本をおいて他にないようだ。
そうだ。長谷川さんが書いているが。東日本大震災の時、日本からの素材・部品の供給がストップして、生産ラインを止めなければならなくなった企業が世界中に続出したんだ。昨年、日本が韓国に輸出する半導体関連などの素材・部品の審査を厳しくしたことで、韓国政府は周章狼狽したのは記憶に新しい。
米中貿易戦争で変動せざるを得ないグローバル・サプライチェーンのなかで、品質の高い素材・部品を常に受け持つ日本企業は、さらに事業を拡大、発展させるチャンスになると、長谷川さんはおっしゃる。
しかも、その大半が技術力の高い中小企業だって言うんだから面白いじゃないか。
後に「暗黒の木曜日」と呼ばれるようになる10月24日をきっかけとして、恐慌は世界に拡大し《世界恐慌》と呼ばれるようになる。長谷川さんは、この恐慌の中で国内産業を保護するためにスムート・ホーリー法を成立させたと書いているが、たしかその法案の審議自体は恐慌発生以前じゃなかったかな。だとすれば、その法案のが審議され、まもなく発効する段階で、株価大暴落が起こってることになる。スムート・ホーリー法は世界恐慌の原因と言うことだ。
元凶はアメリカだ。
第一次世界大戦後、アメリカ経済への依存度を高めていたヨーロッパは、すぐにその影響を受けた。イギリスでは1931年には構内の失業者が300万人近くになったそうだ。マクドナルド政権は1932年にオタワ会議を開き、イギリス連邦内の自治領tの経済的結束を強化し、その分、外部からの輸入品にかける関税を高止まりさせた。
フランスもならって、世界は保護貿易主義を色濃くし、ブロック経済に突入して、世界経済を縮小させた。これが第二次世界大戦の大きな要因の一つとなる。
アメリカの1929年におけるGDP伸び率が5%。それが、イギリスが保護貿易主義に転じた1932年にはマイナス15%。1929年に比べて20%下振れした。
今回の米中貿易戦争もそんな事態を引き起こすのか。
長谷川さんは、それはないと言っている。2019年7月にTMFが公表した経済見通しによると、2019年の世界経済成長率は前年比0.4%減の3.2%になったものの、2020年は前年比0.3%増の3.5%に回復するというものだったという。
アメリカの、2019年の成長率は前年比0.3%減の2.6%。2020年は前年比0.7%減の1.9%。“中国”も2019年が前年比0.4%減、2020年が前年比0.2%減。両国とも減少に転じるのはたしかだけど、世界恐慌の時とはほど遠い。
『大局を読む』 長谷川慶太郎 徳間書店 ¥ 1,760 ソ連邦の崩壊や日本はデフレからは脱却できないとすでに20年前に喝破 |
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こういう風に数字で見るとわかりやすい。たしかに、米中がお互いに追加関税を掛け合っても、両国ともさほど成長率が下がらない。さらには、日本経済の成長率はというと、2019年が前年比0.1%贈の0.9%、2020年が前年比0.5%減の0.4%に低下する。消費税率引き上げを考えれば、米中貿易戦争の余波による打撃が大きいとは言えない。
貿易戦争の影響はさほど大きくない理由は、グローバル化が進んでも米中ともに輸出に頼った経済構造にはなっていないことにあるようだ。貿易戦争が始まる前の2017年の実績によれば、アメリカのGDPに占める輸出の割合は7.9%、“中国”のそれは18.9%となっている。ちなみに日本は14.4%。輸出よりも、実際には内需の方が国内経済への影響が大きい経済構造になっている。
米中の輸出が多少不振に陥っても、国内経済への影響はさほど大きくない。しかも、戦前のブロック経済が陣営外のすべての国に高関税をかけたのに対し、今回はそうではない。米中間の輸出入の動きが高関税によって悪くなっても、それ以外の国との輸出入の流れは悪影響は受けない。
悪影響は受けないが、うれしい影響が出る国が出てくる。
米中貿易戦争においては、産業別で一番大きな影響を受けるのが電子・電気産業で、アメリカではマイナス12.4%、“中国”ではマイナス7.5%となる。この分野ではもともと関税が低かったので、それが25%に引き上げられた影響が大きい。一方、そのおかげで日本、韓国、台湾、ASEAN諸国、インドの電子・電気産業は全体で2.8%のプラスになるそうだ。
アメリカの高関税を回避するため、アメリカ向け製品の生産が“中国”から、さらに人件費の安いASEAN諸国に切り替わるきっかけになれば、ASEAN諸国の漁夫の利は、さらに大きなものになる。
日本はどうか。日本に“中国”から工場が移ってくることはないから、利益はないのか。
日本が強いのは、グローバル・サプライチェーンという分野なんだそうだ。原材料・素材・部品の調達、生産、物流、流通、販売まで一連のつながりでグローバルに展開すること。アメリカ向け製品の生産が“中国”からASEAN諸国に変われば、そこにつながるサプライチェーンも切り替わる。それが可能なのは日本をおいて他にないようだ。
そうだ。長谷川さんが書いているが。東日本大震災の時、日本からの素材・部品の供給がストップして、生産ラインを止めなければならなくなった企業が世界中に続出したんだ。昨年、日本が韓国に輸出する半導体関連などの素材・部品の審査を厳しくしたことで、韓国政府は周章狼狽したのは記憶に新しい。
米中貿易戦争で変動せざるを得ないグローバル・サプライチェーンのなかで、品質の高い素材・部品を常に受け持つ日本企業は、さらに事業を拡大、発展させるチャンスになると、長谷川さんはおっしゃる。
しかも、その大半が技術力の高い中小企業だって言うんだから面白いじゃないか。

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