めんどくせぇことばかり 『山のぼりおり』 石田千
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『山のぼりおり』 石田千

本屋にしても、図書館にしても、古本屋にしても、本がたくさんある場所に行くと時間が早く過ぎる。

ずいぶん前のことだけど、本当に時々だけど、仕事を休んで神田界隈の古本屋を回っていたことがある。まだ二十代の後半から三十代あたりかな。大学の時、論文を書くのに古書店の本をよく利用した。まだ若くて、そういう世界と縁が切れるのが怖かったんかな。学問って世界と何らかのつながりを持っていたいというか。それで、その都度何冊か買い込み、ビアホールでビール飲みながらペラペラページをめくってニヤニヤしていることがあった。

ビアホールに流れていたラジオで、連続幼女誘拐殺害事件の犯人が捕まったってニュースが流れていたのを覚えている。ありゃ、地元の事件だっただけに、強烈な印象に残っている。やっぱり、二十代の後半だ。

あの頃、それなりのお金を出して買った本は、その後、みんな処分した。謡曲全集なんかは力を入れたこともあったんだけど、どこか、格好をつけていた。読んでないけど取ってある本もある。それらは文字通り、その気になればいつでも読める。だけど、格好をつけて買った本は、取っておいても、変に心の重りになるだけだから。

最近訪れる古本屋ってのは、近所のブックオフ。買ってくるのも、いつでも読める本。仮に読まなかったとしても、心の重りになることなく忘れるだろう。

そんな気持ちで買ったきた本の一つ。・・・失礼かな?

山登りのエッセイだ。これは私にしてみれば拾いもの。いえ、お金を出して買ったんだけど。目次を見れば、登った山の名前が並ぶ。それぞれの山の山行記録のようなたたずまい。その点も非常に興味深い。

・・・石田千という人は知らなかった。本は好きだけど、作家にはまったく興味がないもんだから。なんだろう。山登りをする人かな。北村薫さんの『八月の六日間』とか、唯川恵さんの『バッグをザックに持ち替えて』なんかもあるから、もしかしたら作家かもしれないとは思ったんだけどね。

登山家が山のエッセイを出すより、作家が山のエッセイを出す方が、読む方にしてみればいいに決まってるよね。何しろ文章の専門家なわけだから。





山と渓谷社  ¥ 時価

のぼっておりた十の山。「山と渓谷」に連載の石田千初の「登山」エッセイ集
北八ヶ岳・天狗岳
東北・栗駒山
北アルプス・燕岳
信越国境・苗場山
高尾山稜・影信山
屋久島・宮之浦岳
北海道・大雪山
中部・御嶽山
富士山
東北・鳥海山


残念ながら、時価になってた。2008年の本だから、それもやむを得ない。だけど、古本屋でこの本に巡り会えたのは幸運だった。

目次にあるとおりの山に登った経験を、そのままエッセイにしたものなんだけど、登った山が入ってるのも興味深いよね。登ってないのは東北の栗駒山と鳥海山、それから屋久島の宮之浦岳。

山に行くのはお金がかかるから、遠方の山には登ってない。大雪山は、大学の時、先輩たちの遠征を支援するために食料を入れた缶を指定の場所に埋めに行ったとき、ついでに登ってきた。・・・部費で。

もちろんコースが違うケースも多々あるけど、自分が登った山の話だとなると受け止め方も違う。

面白いのは、この作家さんの表現。私はこういう文章は作れない。仮に同じ日に、まったく同じ道を歩いたとしても、私は“それ”に目を見ない。それを聞かない。それに感じない。

倒れた幹から、あたらしい葉が出ている。さまざまなきのこ、クローバー、苔がかさなって、小さな森をつくっている。幹は、じぶんが木だったことをだんだん忘れていくように見える。うとうとと、土となじんでいる。

石田さんは、北八ヶ岳の森の中で、そのように感じた。・・・面白すぎる。

誰かの言葉に、「」がつけられていないので、それが誰かの言葉なのか、それとも著者の心の声なのか、ちょっと迷う。時制が行ったり来たりして、いつ起こったことなのか不安定になる。

そんな揺らぎが、この人の書き方の大きな特徴なのかな。その揺らぎに身を任せるのが結構快感だった。

そのとき笹の波のおくでも、がさりと気配がした。横をむくと、黒くてまるまるした背がはねて、消えた。

これが、熊が現れたときの記述。昨年の夏に私が御前山で熊を見たときに似ている。おいおい、怖いじゃないか。

どうしよう。その後、山には登ってないのかな。山のエッセイは書いてないのかな。書いているなら、是非読みたいんだけどな。

そうそう、装丁もとてもきれいで、本としても魅力もなかなかだと思いますよ。・・・この本、もうけ!




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テーマ : 読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

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こんな本、あんな本


この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
やられた本








































































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