インダス文明『逆説の世界史3』 井沢元彦
インダス文明がどんな文明だったのか、実ははっきりしたことはまったく分かっていないらしい。
私も分からない。この間まで世界の歴史を教える立場だったのに、申し訳ないけど分からない。エジプト文明、メソポタミア文明、黄河文明と、いわゆる四大文明と並び称される他の文明は、かなり詳しいところまで解き明かされつつあるというのに、である。
なぜ分からないのか。理由は三つ。文字が読めないばかりか文書と言えるものがほとんどない。そして、突然滅んでしまった。それから、その後インド亜大陸に成立したヒンドゥー文明との連続性が見当たらない。
だけど、インダス文明が起こったのは紀元前2500年。メソポタミア文明やエジプト文明よりも500年~1000年遅れる。なら、何らかの影響を受けていると思うのが当たり前だけど、それがあれば手がかりになるが、残念ながら見当たらないそうだ。
さらに他の三つの文明に見られる王権や神の存在を示す遺物がまったく発見されていないという。これは困るな。四大文明は、それに近い呼び方で四大河文明とも呼ばれる。ギリシャの歴史家ヘロドトスが、エジプト文明を“ナイルのたまもの”と喝破したが、インダス文明は“大河文明”でもないとも言われるようになってきているんだそうだ。
河川の氾濫がもたらす肥沃な土砂が食料増産を促し、社会性を高め、氾濫への対応が権力を生み出した。同時に、知識や、技術、さまざまなものがその影響の元に高められた。宗教だってその過程で高度化したはずだ。授業では今でもそう教えているだろう。私もそうしていた。
実際、ハラッパー、モヘンジョダロの両都市国家こそインダス川の近くにあるものの、その他の都市国家は大河に関与せず、全体としてのインダス文明は大河に依存する文明ではなかったという考え方になっているらしい。
そう、多くの遺跡は砂漠にある。それらは川の豊富な水量に頼るのではなく、雨期に集中的に降る雨を利用した農業を行なっていたと考えられるようになってきているらしい。大河文明ではなくモンスーン文明ということだ。作物は、われわれ日本人にはおなじみのイネ、キビ、アワなどのモンスーン作物。


モヘンジョダロは、インダス川が流域を変えたことで衰退した。
モヘンジョダロに関してはそう言えるかもしれない。私は、それをインダス文明全体に当てはめて理解していた。「インダス文明は、インダス川が流域を変えたことで衰退した」と。不思議とも思っていなかった。
しかし、モヘンジョダロが広大なインダス文明圏の一都市文明で、その他の多くの遺跡においては雨期に集中して降る雨を利用したモンスーン作物栽培が行なわれていたということになれば、インダス川が流域を変えようが、それが文明が衰退した理由にはならない。衰退の理由は今のところ分からないようだ。
紀元前15世紀頃、中央アジアからカイバル峠をこえて侵入したアーリア人が、インダス文明を滅ぼしたという説もある。しかし、アーリア人の侵入以前にインダス文明が衰退していたというのは、ずいぶん前から言われている。
いずれにせよ。アーリア人がインダス川流域に侵入したとき、かつて隆盛を誇ったインダス文明を支えたドラヴィダ人が細々と生活をしていたんだろう。だけどアーリア人との抗争にあっけなく敗れ、後にカースト制と呼ばれるようになる階層制度の最下層に組み込まれていったらしい。それはそのまま、彼らの宗教であるバラモン教の中にまで組み込まれ、支配の揺るぎない根拠となる。
その後、アーリア人は先住民族の文明を破壊し、それに変わる新たな文明を築き上げたため、先行するインダス文明は“わかりにくい”ものとなってしまった。
インダス文明は、他の三つの文明に照らし合わせて理解することが難しいのは確かなようだ。ただ、他の三文明は民族が入れ替わっても、その本質的部分は受け継がれた。インダス文明だけ、アーリア人に滅ぼされたあとにまるで起源の違う新しい文明としてヒンドゥー文明が生まれたんだろうか。
井沢さんは、「最新の考古学的知見によれば、むしろ強固なインダス文明の土台の上にアーリア人たちの文化が混合したと考えた方がよさそうだ」といっている。
そしてその“わかりにくさ”こそが、ヒンドゥー教に受け継がれたインダス文明の土台ではないかと言うんだけど・・・。こりゃ、分かりにくい話になりそうだな。神道と同じように。
話は変わっちゃうけど、バラモン教の聖典であるリグ・ヴェーダで最も称えられている神にインドラがいる。雷を使う神様で、ギリシャならゼウス。起源はアーリア人の天空神か。仏教はインドラを帝釈天として取り入れた。寅さんに出てくる柴又の帝釈天は、インドラのことか。
私も分からない。この間まで世界の歴史を教える立場だったのに、申し訳ないけど分からない。エジプト文明、メソポタミア文明、黄河文明と、いわゆる四大文明と並び称される他の文明は、かなり詳しいところまで解き明かされつつあるというのに、である。
なぜ分からないのか。理由は三つ。文字が読めないばかりか文書と言えるものがほとんどない。そして、突然滅んでしまった。それから、その後インド亜大陸に成立したヒンドゥー文明との連続性が見当たらない。
だけど、インダス文明が起こったのは紀元前2500年。メソポタミア文明やエジプト文明よりも500年~1000年遅れる。なら、何らかの影響を受けていると思うのが当たり前だけど、それがあれば手がかりになるが、残念ながら見当たらないそうだ。
さらに他の三つの文明に見られる王権や神の存在を示す遺物がまったく発見されていないという。これは困るな。四大文明は、それに近い呼び方で四大河文明とも呼ばれる。ギリシャの歴史家ヘロドトスが、エジプト文明を“ナイルのたまもの”と喝破したが、インダス文明は“大河文明”でもないとも言われるようになってきているんだそうだ。
河川の氾濫がもたらす肥沃な土砂が食料増産を促し、社会性を高め、氾濫への対応が権力を生み出した。同時に、知識や、技術、さまざまなものがその影響の元に高められた。宗教だってその過程で高度化したはずだ。授業では今でもそう教えているだろう。私もそうしていた。
実際、ハラッパー、モヘンジョダロの両都市国家こそインダス川の近くにあるものの、その他の都市国家は大河に関与せず、全体としてのインダス文明は大河に依存する文明ではなかったという考え方になっているらしい。
そう、多くの遺跡は砂漠にある。それらは川の豊富な水量に頼るのではなく、雨期に集中的に降る雨を利用した農業を行なっていたと考えられるようになってきているらしい。大河文明ではなくモンスーン文明ということだ。作物は、われわれ日本人にはおなじみのイネ、キビ、アワなどのモンスーン作物。
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モヘンジョダロは、インダス川が流域を変えたことで衰退した。
モヘンジョダロに関してはそう言えるかもしれない。私は、それをインダス文明全体に当てはめて理解していた。「インダス文明は、インダス川が流域を変えたことで衰退した」と。不思議とも思っていなかった。
しかし、モヘンジョダロが広大なインダス文明圏の一都市文明で、その他の多くの遺跡においては雨期に集中して降る雨を利用したモンスーン作物栽培が行なわれていたということになれば、インダス川が流域を変えようが、それが文明が衰退した理由にはならない。衰退の理由は今のところ分からないようだ。
紀元前15世紀頃、中央アジアからカイバル峠をこえて侵入したアーリア人が、インダス文明を滅ぼしたという説もある。しかし、アーリア人の侵入以前にインダス文明が衰退していたというのは、ずいぶん前から言われている。
いずれにせよ。アーリア人がインダス川流域に侵入したとき、かつて隆盛を誇ったインダス文明を支えたドラヴィダ人が細々と生活をしていたんだろう。だけどアーリア人との抗争にあっけなく敗れ、後にカースト制と呼ばれるようになる階層制度の最下層に組み込まれていったらしい。それはそのまま、彼らの宗教であるバラモン教の中にまで組み込まれ、支配の揺るぎない根拠となる。
その後、アーリア人は先住民族の文明を破壊し、それに変わる新たな文明を築き上げたため、先行するインダス文明は“わかりにくい”ものとなってしまった。
インダス文明は、他の三つの文明に照らし合わせて理解することが難しいのは確かなようだ。ただ、他の三文明は民族が入れ替わっても、その本質的部分は受け継がれた。インダス文明だけ、アーリア人に滅ぼされたあとにまるで起源の違う新しい文明としてヒンドゥー文明が生まれたんだろうか。
井沢さんは、「最新の考古学的知見によれば、むしろ強固なインダス文明の土台の上にアーリア人たちの文化が混合したと考えた方がよさそうだ」といっている。
そしてその“わかりにくさ”こそが、ヒンドゥー教に受け継がれたインダス文明の土台ではないかと言うんだけど・・・。こりゃ、分かりにくい話になりそうだな。神道と同じように。
話は変わっちゃうけど、バラモン教の聖典であるリグ・ヴェーダで最も称えられている神にインドラがいる。雷を使う神様で、ギリシャならゼウス。起源はアーリア人の天空神か。仏教はインドラを帝釈天として取り入れた。寅さんに出てくる柴又の帝釈天は、インドラのことか。

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