めんどくせぇことばかり 『山の安全管理術』 木元康晴
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『山の安全管理術』 木元康晴

まだ若い頃の話なんだけど、滑落現場に居合わせたことがある。

高校の教員になって、新設2年目の学校に赴任した。当初、山岳部はなくて、サッカー部の顧問になった。中学校でサッカーをやっていたから、なんとかなったけど、山に登ってる時間がまったく取れなくなってしまったのは困った。日曜日もぜんぶ試合や練習が入ったからね。

そのうち、ずっと山部の顧問をしてたという人、この人とは一生の付き合いになるんだけど、その人と仲良くなって、山部を作ろうと持ちかけられた。こうなったら、渡りに舟。授業で生徒に呼びかけると、早速何人か飛びついてきた。学校と掛け合うと、どうやら校長は、山岳部を作るのがいやらしい。いやだろうがなんだろうが、生徒会規定に則ってやれば、部活は出来る。校長にどう楯を突くかは、一緒に山部を作った先輩から教えてもらった。

最初の年の1月には同好会を立ち上げて、2月には合宿を行なった。この成り行きの中で、サッカー部は代わってくれる人が見つかってた。最初の合宿から雪山だった。埼玉県の低い山だけどね。山頂に無人小屋があって、そこに泊まった。笠山っていう山だ。今でも小屋はあるけど、この間覗いてみたらひどい状況だった。泊まれないな、あれじゃ。30年以上前の話だからな。

その後、週末になるたびに、あちらこちらの山につれ回って、4月になったら新入部員が7・8人。部費も確保して最低限の装備をそろえ、5月には県大会に出場した。一様、全国大会の補欠校にはなったんだ。補欠のまま終わったけど。厳しいってほどじゃないけど、毎日そこそこの練習はさせてたからね。

とにかく、近場でもいいからテント泊の経験を積ませて、夏合宿は北アルプスに行ったんだ。富山に回って折立から入って薬師岳からずっと縦走して、槍ヶ岳から上高地に下りるコース。自分が高校生の時にもやったコースで、その時の達成感を自分の生徒にも味わわせてやりたかった。

天候にも恵まれ、とてもいい夏合宿が出来たんだ。合宿自体はね。

3日目だったと思うんだけど、黒部五郎の小屋から三俣蓮華に向かう途中のこと。前の日に若い女の二人連れと知り合って、テントで飲んだ。翌日はお互いにゆったりした計画で、双六小屋泊まり。そこから二人は笠ヶ岳に向かうということだった。「じゃあ、双六までは一緒に行きましょう」ってことになった。

時間的にゆとりのある日だからゆっくり出かけて、僕らが前、二人は後ろ。しばらく行って、岩稜帯の北側に雪渓が張り付いている道を歩いているとき、後ろで「あっ」って声が聞こえて、振り返ったら、二人のうちの一人が雪渓を滑り落ちていた。

雪渓は10mもないくらいで、下は岩がゴロゴロしている感じ。ヘルメットもしてないのに、運良く無事。どっちか忘れたけど、膝を岩にぶつけていた。先輩と二人で下まで下りて、おぶって尾根まで上げた。外傷はひどくないけど、立ち上がれる状態じゃなかった。三俣蓮華の小屋までは先輩と二人でおぶって運んだ。

私たちはそのまま、双六岳に向かうんだけど、この人たちとはもう一度会う。合宿を無事終えて、松本駅で電車の時間を待っているホームで。女の人は翌日も歩けなかったので、結局、ヘリを呼んだんだそうだ。松本の病院で一泊して、翌日には良くなったので後は東京の病院にかかるという話だった。

そんなわけで、電車の中で一緒に飲みながら帰った。脚をけがした人とは、今も付き合いがある。もう一人の人は亡くなった。


『山の安全管理術』    木元康晴


山と渓谷社  ¥ 1,100

山での事故予防やトラブル対処に欠かせない安全登山の基礎知識
第1章 だれもが遭遇する山での危険
第2章 実例と対策
第3章 セルフレスキュー
第4章 救助要請とその後


こういった本の中で、ここまで書いている本ははじめてだ。誰でも、遭難しうるという前提に立っている。唯一の絶対的な方法は、山に登らないことだ。

遭難とは、難に遭遇すること。山で難に遭遇したことなら、いくらでもある。でも、ここでいう遭難をそのように理解したら、・・・きりがない。だから一般的に、自力で下山できない状態とする。難に遭遇したことなら数知れないが、自力で下山できなくなったのは一度だけ。股関節変形症からくる痛みが出て、山中で動けなくなった。通りかかった人に、山小屋に連絡してもらい、救助された。

だけどそれ以前の、難に遭遇したことを一つ一つ思い出してみると、この本が言っている多くのことが分かる。

一番多いのが道迷いによる遭難だそうだ。それが焦りを呼び、滑落、転倒、転落につながる場合もある。《第2章 実例と対策》にある道迷いの詳細だけピックアップしてみる。

・どのようにして道に迷うのか
・現在位置の確認法とスマホGPSアプリ
・ナビゲーションとルートファインディング
・道を間違えやすい状況と地形を知ろう
・コースの目印
・なぜ道を間違えてしまうのか
・なぜ引き返せないのか
・道迷いからのリカバリ
・どうしてもリカバリできないときはどうするか
・低山こそ気をつけたい道迷い
・深山での道迷いはリカバリが困難
・滑落や転落に結びつく高山や岩山での道迷い

その時の心理にまで及んで、そうなってしまうことの状況分析をしている。そうそう、それで私も道を間違えて、その理由で引き返せなかった。ようやくリカバリ体制に入っても、結局、無理をして取り戻そうとしてしまう。ああ、天を仰いだこともある。

第2章の、《道迷い》以外の項目を挙げておく。
《滑落、転倒、転落》《体のトラブル》《悪天候による遭難》《野生動物の襲撃》《落石の危険》《雪渓》《火山の危険を避けるには》《装備のトラブル》《危険を未然に防ぐには》

遭難の原因を、あらかた網羅しているんじゃないだろうか。

そうだなぁ。あの時、「お前は下りろ」ってたたき返されたんだよなぁ。言うに言われぬ理由があったんだけどな。直視したくない思い出もあるけれど、やっぱり今後に生かしましょう。





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テーマ : 読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

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こんな本、あんな本


この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
やられた本








































































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