めんどくせぇことばかり 『山の霊異記 黒い遭難碑』 安曇潤平
FC2ブログ

『山の霊異記 黒い遭難碑』 安曇潤平

『山の霊異記』ファンなんだけど、なんかの巡り合わせで、この《黒い遭難碑》は読んでなかった。

でもなぁ、怖いのは嫌だしな。実際、私は山に行くからな。今年からは、山中に一人で泊まることになるし、・・・そんなとき、怖くなるのは目に見えている。だけど、読まずにいられない。ど、・・・どうしよう。

そうじゃなくたって、若い頃は、怖い目に何度もあった。剣の岩壁とか、八峰キレットが怖いって言うんじゃない。・・・いや、剣も八峰キレットも怖い。かなり怖い。涙が出るほど怖かった。だけど、そっちの怖いじゃない。ヒュー、ドロドロの方の“怖い”の話。

山でのそういう思いの一つは、高校1年の正月、1月1日の武甲山。山岳部仲間の横田君とご来光を見に行ったとき。初めての個人山行での夜間登山。高ぶる気持ちを抑えられず、紅白が終わってから、まもなく横田君に電話して出かけてしまった。うちは影森という武甲山の麓、横田君の家は荒川村。都合上、浦山鍾乳洞で待ち合わせて、バイクで登り口に向かった。真っ暗な登山道をヘッ電で照らしながら登るのは、本当にしびれた。しびれすぎたせいか、ゆっくり登ろうなんて気は、まったくなかった。

だけど、やっぱり、ご来光には早すぎた。1月1日のご来光は7時前後。おそらく私たちは、4時には山頂にいた。そんな時間じゃ、山頂に人がいるはずもない。テントなんかもってきてないし、もちろん寝るには寒い。一杯飲みながら時を過ごした。

私が大学の2年の時に、武甲山本来の山頂には入れなくなり、その後、その山頂は崩された。その直前に登って以来、武甲山には登っていない。だから今の山頂を私は知らないが、当時の山頂は、山頂直下の急登がすごかった。山頂からは、最後の厳しい登りが見下ろせた。

しばらく飲んでから、何かの拍子に見下ろすと、ヘッ電の光が二つ登ってくるのが見えた。まだ、だいぶ下の方だった。だけど、20分もすれば、十分登ってくるだろう。5時、それでも早すぎるくらいだ。まだ夜明けの気配すら始まらない。

少しして、様子を見に行ってみる。ヘッ電の光は、さっき見たあたりから動いていない。休憩か。横田君が「おーい」って声をかけた。すると、ヘッ電の光が上を向いて、その直後に消えた。

「えっ、なになに?」

・・・実は、それだけの話なんです。

当時は、今のような登山ブームからはほど遠い時代で、人もさほど多くなかった。この1月1日の朝も、結局、山頂は私たち二人だけ。ご来光は二人占めだった。日の出間際の温度は零下10度を下回った気温が徐々に上昇して、ポカポカ温まってくるまで山頂で過ごした。あの、夜明け前の出来事を忘れるために。

あの、いったん上を向いて消えた二つのヘッ電の光がなんだったのか、その後もまったく分からない。




角川文庫  ¥ 748

心身ともに強靭な山男たちを震撼させる、恐ろしくも不可解なできごと
顔なし地蔵    青いテント   三途のトロ
山ヤ気質     真夜中の訪問者 大弛峠
ポニーテールの女 霧幻魍魎    黒い恐怖
鹿神旅館     霧限の彷徨   釜トンネル
目        青い空の記憶  滑落
はないちもんめ  裏山      乾燥室
ひまわり     櫛       八方温泉
山神トンネル


不思議な出来事と、恐ろしい出来事は違う。

私が若い頃に体験したのは、ふしぎな出来事だな。

山の方からキャンプ場に向かって、「おーい、おーい」って呼びかける声が聞こえる。

夜、満月に向けて歩いていたら、いつの間にか月は後ろにあって、じゃあ、前にある明かりはなあに?

後ろからザックを引っ張るのはだあれ?

瞬く星々の中で、ほんの三つ四つだけが、変に動いているとか。

なんか、ちょっと前なら、狐に化かされたってことで済まされちゃうような出来事だな。

ヒュードロドロで恐ろしいっていう質の悪いのは、登山にかこつけて谷底に蹴落とされたとか、東京で殺されて、秩父の山に埋められたとか、そういう希有な霊なんだろう。

山で死んじゃうっていうのは、もちろん不本意な死であったろうけど、好きで来た山だからね。それが成仏できないっていうのは、まずないでしょう。だから、遭難碑を見ても、それ自体が恐ろしいとは思わない。

自分が死んだことに気づかずにさまよってるってのは、あるかも知れないね。だけどそれなら、人をビックリさせることはあっても、こっちの世界に引きずり込もうという悪意はないはず。

まあ、『山の霊異記』は怪談話の本だからね。追いかけてきたり、引きずり込もうとしたり、取り憑いてみたり、そういう霊たちばかりを登場させる。もう、恐ろしくて、恐ろしくて。

ただ、不気味さを感じさせる場所っていうのはあるね。早く遠ざかりたい場所。なんだか、後ろから気配の感じられる場所。さっきまでそんなじゃなかったのに、そこに通りかかったら、急に冷気に包まれるような場所。なんだかざわつく場所。

もしも、この話に出てくるような、通りがかる登山者に災いしようという霊があるとしたら、それは・・・。

理由は分からない。その理由を創作して、怪談話にまとめ上げるのが安曇潤平さんの仕事ということだな。

あの、いったん上を向いて消えた二つのヘッ電の光。あれはやっぱり、死んだ人だろう。つい、自分が死んだことを忘れて、ご来光を見に現れちゃったんだろう。だけど、二人はいつまで経っても、山頂にはつけなかったんだ。山頂につけずに死んだから。急登にあえいで、息が苦しくて苦しくて、・・・そんなとき、山頂から「おーい」って呼びかけられて、自分たちが遭難して死んだことを思い出したんだろう。

「おっと、いけねえ」って、ヘッ電の明かりが消えたんだ。



関連記事

テーマ : 読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

コメントの投稿

非公開コメント

ありがとうございました



「《めんどくせぇことばかり》は、Amazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイト宣伝プログラムである、Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。」
よくお越し下さいました

イーグルス16

Author:イーグルス16

息も絶え絶えです、ぜひ応援してください


あなたにとって切ない歌とはなんですか?
いい歌はたいてい切ない。あるときふとそう気づきました。
カウンター
カテゴリ
こんな本、あんな本


この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
やられた本












































































リンク
検索フォーム
RSSリンクの表示
最新記事