『偽善エコロジー』 武田邦彦
私の住んでいる東松山市では、毎年、暑い時期になると、多くの人がバーベキューをしに集まる河原がある。
“くらかけ清流の里”と言って、市が運営している。堂平山を中心とする奥武蔵北部の山域を源流に県中部で荒川に合流する都幾川の河原で、市内倉掛橋周辺の緑豊かな自然の中で、川遊びをしながらバーベキューを楽しめる。
昨年の台風19号で、この河原も被害を受けた。河原に並んでいたバイオトイレが流されてしまったし、地形も大きく変わった。おそらくゴールデンウィークに間に合わせようとしたんだろう。急ピッチで復旧工事が進められ、なんとか間に合ったというのに、“中国”発の感染症で、再開見送りになってしまった。
また、東松山市は焼き鳥で有名でもある。焼き鳥とは言うものの、実は焼きトンで、これにつけて食べる味噌だれがうまいと有名でもある。昭和30年代にその源流があるようで、在日朝鮮人の食肉文化がそのもとにあるらしい。焼き鳥音頭もあって、焼き鳥は東松山市民のソウルフードと言ってもいい。
だけど、バーベキューも焼き鳥も、焼けばダイオキシンは発生している。これは困った問題なのだ。何しろ埼玉県は、埼玉県生活環境保全条例の第61条において、「何人も、ダイオキシン類等による人の健康又は生活環境への支障を防止するため、規則で定める廃棄物焼却炉を用いないで、廃棄物その他の規則で定める物を焼却してはならない」としているからだ。
高校で担任なんかしていると、週に一度、LHRと言うのがあって、その1時間をクラスの企画で過ごすことがある。生徒が自分たちで何でもできるようなら問題ないが、私の勤務した高校は、いずれもそうはうまくいかなかった。そのたび毎に係を決めて、私がその手伝いをするという形で進める。
思い出深い企画の一つに焼き芋がある。係の子がお金を集めて、事前にサツマイモを買い出しておく。後はアルミホイルくらいだな。LHRと言うのがはいつも6時間目だったんだけど、昼休みに係の子と一緒に、雑木林に焚き火用の枯れ木を広いに行くんだ。40人くらいのクラスだから、かなりの量になる。
5時間目から焚き火を始めないと間に合わない。授業があったら交代してもらって、5時間目は私がずっと火の番をする。火の番は嫌いじゃない。どっちかって言うと、好きだ。いや、かなり好きな方だ。子どもの頃、母に頼まれて、いや、頼まれもしないのに、家のゴミをよく庭で燃やした。燃えにくい生ゴミみたいにも混ざってる。いかにすべてを燃やす尽くすかが、腕の見せ所。役に立つのがビニール。だから、私は知っている。武田さんが言うように、ゴミは金属とそれ以外に分ければ良い。
焼き芋に戻る。1時間かけて40本の焼き芋ができるだけの熾火を作って、生徒が来たらアルミホイルに包ませて、熾火の中に入れさせる。焼き上がった芋を食べるときの、彼らの笑顔が懐かしい。ダイオキシンも吹き飛ばす。


2001年、当時、東京大学医学部教授で、免疫学や毒物学の第一人者であった和田攻教授が、すでにダイオキシン問題に結論を出している。
「少なくともヒトは、モルモットのようなダイオキシン感受性動物ではない。また、現状の環境中ダイオキシン発生状況からみて、一般の人々にダイオキシンによる健康障害が発生する可能性は、サリン事件のような特殊な場合を除いて、ほとんどないと考えられる」
私は気づかなかったのだが、この結論の出し方には、武田さんがビックリしてしまうような、“和田先生の覚悟”が見受けられるんだそうです。
科学者というのは、いろいろな実験や調査を行なって、分かった事実に基づいて論文を書く。ところが、和田先生のこの論文は、《将来においても、通常の生活を続ける中で、ダイオキシンによる健康障害が起こる可能性はない》と、将来の責任まで引き受けている。
東京大学にも偉い人物がいるもんだ。
久米宏がニュースステーションで、埼玉県所沢市の葉物野菜からダイオキシンが検出されたと報じたのは、1999年だった。あれはひどかった。所沢の野菜農家が大打撃を受けてね。後で謝りに行ったそうだけど、そういう謝罪はちゃんと番組の中でやるべきだよね。裁判になって、テレビ朝日が1000万円の和解金を払ったんだそうだ。
ダイオキシンという物質名を最初に聞いたのは、アメリカが枯れ葉剤をまいた地域で生まれた、ベトとドクという双子が身体の一部を共有する奇形のことが報道されたことによる。それが枯れ葉剤に含まれたダイオキシンという成分によるものとされる報道だった。
アメリカの蛮行を攻撃する格好の話題でもあって、盛り上がったんだろう。しかし、ダイオキシンに奇形を発生させる働きがあることが証明されたという話は、ついぞ聞かない。
可能性としてでさえ、そんな状況があるなら久米宏が黙っちゃいないだろうし、河原でバーベキューなんかやってる場合じゃない。焼き鳥なんてもってのほか。炉端焼きもダメだな。
世の中は、誰かの“ちょっとした都合”で動かされている。
“くらかけ清流の里”と言って、市が運営している。堂平山を中心とする奥武蔵北部の山域を源流に県中部で荒川に合流する都幾川の河原で、市内倉掛橋周辺の緑豊かな自然の中で、川遊びをしながらバーベキューを楽しめる。
昨年の台風19号で、この河原も被害を受けた。河原に並んでいたバイオトイレが流されてしまったし、地形も大きく変わった。おそらくゴールデンウィークに間に合わせようとしたんだろう。急ピッチで復旧工事が進められ、なんとか間に合ったというのに、“中国”発の感染症で、再開見送りになってしまった。
また、東松山市は焼き鳥で有名でもある。焼き鳥とは言うものの、実は焼きトンで、これにつけて食べる味噌だれがうまいと有名でもある。昭和30年代にその源流があるようで、在日朝鮮人の食肉文化がそのもとにあるらしい。焼き鳥音頭もあって、焼き鳥は東松山市民のソウルフードと言ってもいい。
だけど、バーベキューも焼き鳥も、焼けばダイオキシンは発生している。これは困った問題なのだ。何しろ埼玉県は、埼玉県生活環境保全条例の第61条において、「何人も、ダイオキシン類等による人の健康又は生活環境への支障を防止するため、規則で定める廃棄物焼却炉を用いないで、廃棄物その他の規則で定める物を焼却してはならない」としているからだ。
高校で担任なんかしていると、週に一度、LHRと言うのがあって、その1時間をクラスの企画で過ごすことがある。生徒が自分たちで何でもできるようなら問題ないが、私の勤務した高校は、いずれもそうはうまくいかなかった。そのたび毎に係を決めて、私がその手伝いをするという形で進める。
思い出深い企画の一つに焼き芋がある。係の子がお金を集めて、事前にサツマイモを買い出しておく。後はアルミホイルくらいだな。LHRと言うのがはいつも6時間目だったんだけど、昼休みに係の子と一緒に、雑木林に焚き火用の枯れ木を広いに行くんだ。40人くらいのクラスだから、かなりの量になる。
5時間目から焚き火を始めないと間に合わない。授業があったら交代してもらって、5時間目は私がずっと火の番をする。火の番は嫌いじゃない。どっちかって言うと、好きだ。いや、かなり好きな方だ。子どもの頃、母に頼まれて、いや、頼まれもしないのに、家のゴミをよく庭で燃やした。燃えにくい生ゴミみたいにも混ざってる。いかにすべてを燃やす尽くすかが、腕の見せ所。役に立つのがビニール。だから、私は知っている。武田さんが言うように、ゴミは金属とそれ以外に分ければ良い。
焼き芋に戻る。1時間かけて40本の焼き芋ができるだけの熾火を作って、生徒が来たらアルミホイルに包ませて、熾火の中に入れさせる。焼き上がった芋を食べるときの、彼らの笑顔が懐かしい。ダイオキシンも吹き飛ばす。
『偽善エコロジー』 武田邦彦 幻冬舎新書 ¥ 814 いわゆる「地球に優しい生活」は、じつは消費者にとって無駄でしかない |
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2001年、当時、東京大学医学部教授で、免疫学や毒物学の第一人者であった和田攻教授が、すでにダイオキシン問題に結論を出している。
「少なくともヒトは、モルモットのようなダイオキシン感受性動物ではない。また、現状の環境中ダイオキシン発生状況からみて、一般の人々にダイオキシンによる健康障害が発生する可能性は、サリン事件のような特殊な場合を除いて、ほとんどないと考えられる」
私は気づかなかったのだが、この結論の出し方には、武田さんがビックリしてしまうような、“和田先生の覚悟”が見受けられるんだそうです。
科学者というのは、いろいろな実験や調査を行なって、分かった事実に基づいて論文を書く。ところが、和田先生のこの論文は、《将来においても、通常の生活を続ける中で、ダイオキシンによる健康障害が起こる可能性はない》と、将来の責任まで引き受けている。
東京大学にも偉い人物がいるもんだ。
久米宏がニュースステーションで、埼玉県所沢市の葉物野菜からダイオキシンが検出されたと報じたのは、1999年だった。あれはひどかった。所沢の野菜農家が大打撃を受けてね。後で謝りに行ったそうだけど、そういう謝罪はちゃんと番組の中でやるべきだよね。裁判になって、テレビ朝日が1000万円の和解金を払ったんだそうだ。
ダイオキシンという物質名を最初に聞いたのは、アメリカが枯れ葉剤をまいた地域で生まれた、ベトとドクという双子が身体の一部を共有する奇形のことが報道されたことによる。それが枯れ葉剤に含まれたダイオキシンという成分によるものとされる報道だった。
アメリカの蛮行を攻撃する格好の話題でもあって、盛り上がったんだろう。しかし、ダイオキシンに奇形を発生させる働きがあることが証明されたという話は、ついぞ聞かない。
可能性としてでさえ、そんな状況があるなら久米宏が黙っちゃいないだろうし、河原でバーベキューなんかやってる場合じゃない。焼き鳥なんてもってのほか。炉端焼きもダメだな。
世の中は、誰かの“ちょっとした都合”で動かされている。
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