めんどくせぇことばかり 『滅びゆく日本の方言』 佐藤亮一
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『滅びゆく日本の方言』 佐藤亮一

大学に入ったばかりのころ、同じクラスの人たちに馴染もうと、私は会話をしている一団に無邪気に話しかけ、話題に交じっていったときのこと。

その一団の人たちが、私を怪訝な表情で見ているのに気がついた。なんだろうと思っていると、その中の一人に言われた。「君がなんて言っているのか、僕にはさっぱり分からない」

それきり、その人たちの輪は、私に対して閉じられた。私の無邪気な言葉が共通語の人間に通じないことを、私はその時はじめて知った。しゃべることが少し怖くなり、秩父弁を出さないように、用心深くしゃべるようになった。

まあ、そんなことを言う共通語の奴と友人になる必要もないのでどうでも良いのだが、語学と体育だけは一緒になる。特に体育だな。体育はなにをやっても大の得意だが、地元には私以上の奴も何人かいた。ところが、そのクラスの中では、私ともう一人、熊本出身の人が突出していた。彼と張り合うのは面白くて、体育は楽しかった。

しかし、つまらないことが起こったこともある。

例の件以来、私は共通語の一団を避けるようにしていた。一団の方でもそれに気づいていたようだ。だけど、サッカーやバスケで楽に彼らをあしらうと、どうやらそれが、私の悪意と受け止められてしまったようだ。彼らは次第に、私を止めるために身体をぶつけてくるようになった。

争いは好まないが、勝負事だと熱くなることがある。バスケの試合中にわざとらしい体当たりしてきた奴がいた。なんとか踏ん張って、そいつを交わしてシュートを決めたあと、彼を突き倒して言ってしまった。

「ぎゃーねーことしやがって、はっけぇすぞこの野郎」

私がなんて言っているか、彼にはさっぱり分からなかっただろう。でも、それ以来、絡まれることもなくなった。

そうそう、熊本出身の彼だけど、そのうち大学で見かけることがなくなった。風の噂に、大学をやめたと聞いた。ところがしばらくして、テレビに出ている彼を見つけた。

ちなみに、バスケの試合中、私が体当たりをしてきた奴に言ったのは、「つまらないことをしやがって、張り倒すぞこの野郎」という意味。




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方言の分布、ことばの由来などを解説しつつ、方言の変容に思いを馳せる本
1 方言とはなにか
2 自然
3 食物・料理・味
4 人間・生活
5 動植物
6 遊戯
7 文法的特徴の地域差
8 方言の現在


方言の話なんで、あえて“おばあちゃん”と呼ばせてもらうが、おばあちゃんの話す言葉が正真正銘の秩父弁だった。言うことを聞かずにグズグズしていると、「えらぞんぜ~るんじゃね~で」って怒られた。

宿題をささっとこなして遊びに行こうとすると、「はぁおわったんけえ~、そそらっぺ~ことやったんだんべ。あそびべいってねーで、たまにゃ~はたけすけろい」とかね。

遊んでいるときなんかによく聞いた言葉で、「たんまなしたー」というのがある。この言葉に関しては、特定の風景と一緒になった記憶がある。その風景からすると、私は小学校の校庭にいて校門の方を向いている。校門の正面には《赤岩肉店》という肉屋があった。

夕方、学校で遊んでいると、職員室の窓から先生に呼ばれて、お使いに行かされたことがある。給食の残りのコッペパンをとお金を渡されて、コロッケをのっけてソースかけてもらってこいというのだ。四方田先生という女の先生だった。ソースは多めにかけてもらえって言われた。教室で、図工の時間に、ついうっかり四方田先生を「おかあさん」と呼んでしまったことがある。クラス中に大笑いされたが、誰でも一度くらいはそう呼んでいたような気がする。

話がそれた。校門の方を向いていた私の目には、《赤岩肉店》が見えている。校門の内側、私から見て左側にはブランコが、右側にはジャングルジムやシーソーがある。私たちは何人かで、鬼ごっこをして遊んでいた。私は鬼ではなく、逃げる側のようだ。途中、《赤岩肉店》のしんちゃんが、おかあさんに呼ばれて、一旦家に戻った。その時、しんちゃんはタイムを取っている。

タイムを宣言すると、他のメンバーは、その場で固まっていなければならない。しんちゃんのおかあさんの用事は簡単なことだったようで、しんちゃんが家から出てきて、校門から校庭に入ってくる。遊びを再開できる喜びで、満面の笑みのしんちゃんが、ゲーム再開の宣言をする。

それが、「たんまなしたー」

「たんま」はタイムのこと。「なした」は返した。借りたものを返すことを、「なす」という。「たんまなした」は、タイム返上という意味。それが、左のブランコ、右のジャングルジムとシーソー。《赤岩肉店》が向こうに見える校門から入ってくる、しんちゃんの満面の笑みとともに響く「たんまなしたー」の声。

しんちゃんはほっぺの赤いはなたれ小僧で、ときお君もいたような気がする。武ちゃんは、今は市会議員。やっちゃんがいつも同窓会を仕切ってくれているみたいだけど、私は不義理のしっぱなし。みんな私と同じ還暦だ。・・・いや、もう61になったやつもいるはずだ。

懐かしいな~。「たんまなした」って言って、あの止まったままの風景を動かしたいな。


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ジャンル : 本・雑誌

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こんにちはー

方言って、歴史や民俗が見え隠れしてて、
とてもおもしろいですよね。

うちら田舎のほうでは、「た~んま」、「た~んま、はなしたー」って
言っていました。
はなしたー、は、拘束を開放する、という意味で、
「放したー」だとばっかり思っていました。
秩父と北海道苫小牧市、どんなつながりがあったんでしょうね。

ありがとうございました



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この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
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