人名『日本人のための漢字入門』 阿辻哲次
2020年はオリンピックイヤーになるはずだった。
でも、ならなかった。3月24日に1年の延期が決定され、オリンピックイヤーは2021年になってしまった。だけど、2月中旬あたりまでは、社会の危機感もさほどではなかった。1月下旬に武漢が封鎖されても、日本には、まだどこか高をくくってしまったところがあった。本当は日本も、あの時、中国人を入れない政策をとれていればって、今は思う。そういう人が多いだろう。つまり、2月中旬あたりまでは、2020年がオリンピックイヤーであることに?感を持つ人は、それほど多くなかったはず。
なんでこんなことを言い出したかというと、この本の冒頭に、前の東京オリンピックイヤー昭和39年、西暦1964年に生まれた人が、《五輪男》と名付けられたという話が出てくるからだ。《五輪男》と書いて《いわお》と読むんだけど、残念ながら彼は、友人たちから違う名前で呼ばれた。
なんと呼ばれたか?・・・分かるよね。そう、《ごりお》。それしかないよね。
もしも、・・・もしも、新たな時代の《ごりお》君が、この1月から2月中旬の間に生まれていたら、これはとても貴重な名前ということになる。なにしろ2020年の五輪は失われてしまったのだから。失われた《いわお》なのだ。
私の親は、名前の付け方では、あまり悩んでいなかったようだ。三人兄弟三番目で、上から順番に漢字一字の下に一、二、三と付いている。上の漢字一字は、神社に行ってもらってきたという。
《△三》というのが私の名前なんだけど、《三》は《ぞう》と読むので、前の漢字によっては前時代的な名前になる。私はさほど、そう感じてはいなかったんだけど、そう思う人も多々いたようで、時に名前でからかわれたこともあった。
私よりもいくつか年上の同僚で、《△吾》という方がいた。実は三人兄弟三番目という私と同じ立場の方で、父親は《△》という漢字にこだわっていた。となると、私と同じ《△三》という名前になりそうなもんなんだけど、実際に、そうなるはずだったという。それを「古くさくて可哀想」というおばあさまの反対があり、《△吾》で落ち着いたという。
どうやら私の名前も、“可哀想”という分類の名前らしい。
それを私に話してしまう、《△吾》先輩の性格も、いかがなものかと思うんだけど。


この本の著者阿辻哲治さんは、《人名用漢字》の見直しのための委員会に、委員の一人として関わったんだそうだ。その名も、《法制審議会人名用漢字部会》。なんだか、重々しいね。
もとはと言えば、ある男児の名前をめぐって裁判が行なわれ、行政側が敗訴したことがきっかけとなる。札幌市のある区役所が、《曽良》という名前を記載した出生届を、《曽》の字が名前には使えない字であることを理由に受け取らなかったんだそうだ。これを不服として親が訴えたんだな。
《曽良》と言えば、松尾芭蕉と『奥の細道』の旅を共にした弟子の名前。それが使えなかったんだ。
この裁判は、なんと最高裁まで行き、最終的に最高裁から《曽》の字が人名に使えないのは違法状態という判決が出されたんだそうだ。法務省は同様の裁判をいくつか抱えており、この際人名用漢字について抜本的な見直しを行なおうとなったらしい。
行政が政策の見直しや改正を行なおうとするときに、専門家による部会が開かれる。この専門家っていうのが、けっこう怪しい。この《法制審議会人名用漢字部会》は民法学者を委員長に、法曹界、文化庁・産経省の関係者、新聞や放送業界のジャーナリスト、日本語や漢字の研究者、俳人、戸籍事務現場の実務者などで構成されていたという。
気になったのは、この国際化に鑑みて、ローマ字はもちろんのこと、ハングルや現在の“中国”で使われている簡字体の名前も戸籍上の名に使えるようにすべきだという意見が出されたという話。国際的に活躍する人物としてテレビ番組などの登場する委員からの提案だったそうだ。
国の進路を決める審議会や部会の委員として呼ばれている人物にも、この手の常識のない人がいる。ローマ字にかこつけて、ハングルや簡字体の導入に重きを置いている左翼系の“知識人”かもしれない。
阿辻さんも《暴論》と言っておられるが、こりゃ当然のこと。“進歩人”の変に進んだ頭で考えて、「世の中平等が一番」とかわけの分からない平等教、あるいは平等病が蔓延し、ハングルや簡字体を取り入れることが“知識人”や“進歩人”のあるべき姿みたいなことが吹聴されなくて良かった。漢字部会で阻止してくれた阿辻さんたちのおかげだな。
そんなものを取り入れたら最後、平等教、あるいは平等病の原則により、キリス文字やタミール文字、さらにはアラビア文字の名前が戸籍に登録され、右から読むのか左から読むのかすら分からない。どうせなら右から読んでも左から読んでも山本山。戸籍係だけはなりたくない。
Q太郎にP子、それからO次郎なんて名前なら歓迎したいところではあるんだけど。
でも、ならなかった。3月24日に1年の延期が決定され、オリンピックイヤーは2021年になってしまった。だけど、2月中旬あたりまでは、社会の危機感もさほどではなかった。1月下旬に武漢が封鎖されても、日本には、まだどこか高をくくってしまったところがあった。本当は日本も、あの時、中国人を入れない政策をとれていればって、今は思う。そういう人が多いだろう。つまり、2月中旬あたりまでは、2020年がオリンピックイヤーであることに?感を持つ人は、それほど多くなかったはず。
なんでこんなことを言い出したかというと、この本の冒頭に、前の東京オリンピックイヤー昭和39年、西暦1964年に生まれた人が、《五輪男》と名付けられたという話が出てくるからだ。《五輪男》と書いて《いわお》と読むんだけど、残念ながら彼は、友人たちから違う名前で呼ばれた。
なんと呼ばれたか?・・・分かるよね。そう、《ごりお》。それしかないよね。
もしも、・・・もしも、新たな時代の《ごりお》君が、この1月から2月中旬の間に生まれていたら、これはとても貴重な名前ということになる。なにしろ2020年の五輪は失われてしまったのだから。失われた《いわお》なのだ。
私の親は、名前の付け方では、あまり悩んでいなかったようだ。三人兄弟三番目で、上から順番に漢字一字の下に一、二、三と付いている。上の漢字一字は、神社に行ってもらってきたという。
《△三》というのが私の名前なんだけど、《三》は《ぞう》と読むので、前の漢字によっては前時代的な名前になる。私はさほど、そう感じてはいなかったんだけど、そう思う人も多々いたようで、時に名前でからかわれたこともあった。
私よりもいくつか年上の同僚で、《△吾》という方がいた。実は三人兄弟三番目という私と同じ立場の方で、父親は《△》という漢字にこだわっていた。となると、私と同じ《△三》という名前になりそうなもんなんだけど、実際に、そうなるはずだったという。それを「古くさくて可哀想」というおばあさまの反対があり、《△吾》で落ち着いたという。
どうやら私の名前も、“可哀想”という分類の名前らしい。
それを私に話してしまう、《△吾》先輩の性格も、いかがなものかと思うんだけど。
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この本の著者阿辻哲治さんは、《人名用漢字》の見直しのための委員会に、委員の一人として関わったんだそうだ。その名も、《法制審議会人名用漢字部会》。なんだか、重々しいね。
もとはと言えば、ある男児の名前をめぐって裁判が行なわれ、行政側が敗訴したことがきっかけとなる。札幌市のある区役所が、《曽良》という名前を記載した出生届を、《曽》の字が名前には使えない字であることを理由に受け取らなかったんだそうだ。これを不服として親が訴えたんだな。
《曽良》と言えば、松尾芭蕉と『奥の細道』の旅を共にした弟子の名前。それが使えなかったんだ。
この裁判は、なんと最高裁まで行き、最終的に最高裁から《曽》の字が人名に使えないのは違法状態という判決が出されたんだそうだ。法務省は同様の裁判をいくつか抱えており、この際人名用漢字について抜本的な見直しを行なおうとなったらしい。
行政が政策の見直しや改正を行なおうとするときに、専門家による部会が開かれる。この専門家っていうのが、けっこう怪しい。この《法制審議会人名用漢字部会》は民法学者を委員長に、法曹界、文化庁・産経省の関係者、新聞や放送業界のジャーナリスト、日本語や漢字の研究者、俳人、戸籍事務現場の実務者などで構成されていたという。
気になったのは、この国際化に鑑みて、ローマ字はもちろんのこと、ハングルや現在の“中国”で使われている簡字体の名前も戸籍上の名に使えるようにすべきだという意見が出されたという話。国際的に活躍する人物としてテレビ番組などの登場する委員からの提案だったそうだ。
国の進路を決める審議会や部会の委員として呼ばれている人物にも、この手の常識のない人がいる。ローマ字にかこつけて、ハングルや簡字体の導入に重きを置いている左翼系の“知識人”かもしれない。
阿辻さんも《暴論》と言っておられるが、こりゃ当然のこと。“進歩人”の変に進んだ頭で考えて、「世の中平等が一番」とかわけの分からない平等教、あるいは平等病が蔓延し、ハングルや簡字体を取り入れることが“知識人”や“進歩人”のあるべき姿みたいなことが吹聴されなくて良かった。漢字部会で阻止してくれた阿辻さんたちのおかげだな。
そんなものを取り入れたら最後、平等教、あるいは平等病の原則により、キリス文字やタミール文字、さらにはアラビア文字の名前が戸籍に登録され、右から読むのか左から読むのかすら分からない。どうせなら右から読んでも左から読んでも山本山。戸籍係だけはなりたくない。
Q太郎にP子、それからO次郎なんて名前なら歓迎したいところではあるんだけど。
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