めんどくせぇことばかり 『日本人のための漢字入門』 阿辻哲次
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『日本人のための漢字入門』 阿辻哲次

「正」という字の上の横線を除くと、「止」という字になる。「止」はもともと、人間の足跡の象形文字だそうだ。たしかに、「歩」という字にも「止」がある。上についている横線は、古くは四角や丸の形に書かれたという。城壁に囲まれた集落だそうだ。つまり、「正」という字は、集落を囲む城壁に向って進む人、攻撃を仕掛けている形をあらわすんだそうだ。

ところが、・・・だ。本来、それ自体が「戦争を仕掛ける」という意味を持っていた「正」が、勝てば官軍で、勝って正義を手に入れた。それでこの字が「ただしい」という意味を含むようになり、さらにはそれが主な意味をあらわすと思われるようになり、元来の意味が忘れられていった。

そのため、「他者に対して戦争を仕掛ける」という、「正」の本来の意味をあらわす新たな漢字が必要となる。そこで登場したのが、本来その意味の漢字であった「正」に「道・行進」を示す「彳」をつけて、「征」という漢字なのだそうだ。

この話のあとに、著者の阿辻さんは、《正露丸》の話をあげている。本来、この薬は露西亜征伐に出かける兵隊さんのために作られた整腸剤で、《征露丸》と書かれた。薬の効きもあったのか、ロシアには勝った。だけど、第二次世界大戦で敗戦国となった日本では、《征露丸》はマズイだろうということになり、《正露丸》としたんだという。

まあ、「正」本来の意味を考えれば、何も変わっていないことになるわけだ。

ちょっと前に、『漢語の謎』という本を読んだ。その本に、「一語十年」という言葉が出てきた。奥深い知識の世界を、膨大な参考文献に溺れるようにして、その出自をたどる。膨大なエネルギーと、なにより時間が必要だということのようだ。

「正」という字一つとっても、「一語十年」、いや、この場合「一字十年」か。それが身にしみるように思える。




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第1章 漢字と暮らす
日々の暮らしと漢字
「令和」の漢字学
旅先で出あう漢字
人名用漢字について
第2章 漢字をまなぶ
漢字学のすすめ
漢字の履歴書
異体字のはなし
情報化時代と漢字


そうそう、さっき出てきた「彳」に、人間の足跡をあらわす「止」をくっつけて、「その道を進む」という意味をあらわしたのが「辵」で、「しんにょう」の本来の形だそうだ。

向こうから来る人を迎えに行く。そういう意味を持った漢字がある。人が立っている姿をあらわす漢字は「大」。それが向こうからやってくるので、上下がさかさまになる。歩いて行くので、足跡を表す「止」持ついている。

この漢字は「逆」。「逆」っていう漢字は、本来、向こうから来る人を迎えに行くという意味を持っていたんだそうだ。向こうから来る人と、こちらから行く自分。「相反する方向」というところから、「さかさま」という意味を持つようになったらしい。

面白いね。漢字って。

イギリスの言語学者ムーアハウスは、まったく手放しでアルファベットを最高の文字システムと礼讃しているそうだ。人間が、意思疎通のために絵を描くようになって以来、自然淘汰によるのでなく、人間の選択によって適者生存へ進む進化の過程とみなしうる最高の成果とまで言い切っている。

自然淘汰であろうが、適者生存であろうが、残念ながらそれは文字の力によるものではなく、白人が戦争に強かったことの証明に他ならない。

日本が戦争に負け、戦後、進駐してきたアメリカ人は、日本人が使う漢字をまったく理解できなかった。自分が分からないもんだから「悪魔の使う文字」なんて言い出して、漢字を使用するのは日本人にとっても不幸なことだと決めつけた。ローマ字を使った方が日本人も幸せだと。

ローマ字への変更までの間、当面使用する漢字として、1850種類の漢字を選んだのが「当用漢字」だという話がこの本でも紹介されている。

占領軍は、ローマ字化を本気で考えていた。日本人が戦争を仕掛けてきたのは、難解な漢字のせいで教育が遅れているからだと、最初っから最後までわけの分からない世迷い言。“進歩的“な方々にも、同調する人が多かったそうだ。

当用漢字が発表されたあとも、日本人が漢字を使いこなせているなんて、到底信じられない彼らは、日本人をテストしている。無作為に選出した15~64歳までの2万人が指名され、8割が参加したそうだ。

100点満点で平均点は78.3点。あまりの高得点にビックリ。占領軍にとってローマ字かは既定路線であったため、データの改竄するよう圧力もあったらしいけど、最終的には諦めたようだ。一般庶民の知力の高さのおかげで漢字仮名交じり文は守られたんだな。

なんだか最近、文科省は英語教育に力を入れるらしいけど、そりゃちょっと違うような気がするんだけどな。“進歩的”な人がたくさんいるのかな。



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この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
やられた本


















































































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