恋愛ホルモン『女と男 なぜわかりあえないのか』 橘玲
思い起こせば、恥ずかしきことのかずかず
あの“恥ずかしきことのかずかず”は、どうやら恋愛ホルモンの仕業だったようだ。
すべての生き物は、生存と聖職に最適化されている。リチャード・ドーキンスと言う人は、著書『利己的な遺伝子』で、私たちは遺伝子の複製のための乗り物に過ぎないとまで言っているそうだ。腹が立つ言い方だけど、たしかにそうだ。遺伝子の複製に成功したから、今、私はここにいるわけだ。遺伝子の複製に失敗したものは、存在できないんだから。
遺伝子の複製には生殖が必要だけど、生存が確保されなければ生殖にはたどり着かない。そりゃ、卵を産みに川をさかのぼってくる鮭を見ればたしかにその通りだな。生きて、故郷の川にたどり着いて、ようやく生殖だからね。
人類の歴史を考えたって、今は、人が生まれて、男であれ女であれ成長して、巡り合って、生殖して、父親母親として子どもを育て上げて、人生をまっとうして死ぬという人生が、まあ、先進国では当たり前になっている。
だけどそれはごく最近のことで、人類の歴史の大半は、飢餓との戦いだった。それでも子孫を残すために、男は自分でも持て余すほどのとてつもなく強い性欲を、女はとてつもなく強い我が子への愛着を持つように遺伝子を設計し直してきた。
それが、産業革命による急速な科学技術の発展で、経済的な豊かさを手に入れる国が、西洋に登場する。経済的な豊かさをめぐって、限られた資源の奪い合いが激しくなり、大きな戦争が発生した。ほんの75年前のことだ。
長谷川慶太郎さんは、《戦争と革命の20世紀》と言っていた。戦争と革命で、もの凄い数の人が死んだ。その反動で、人々は、なんとか折り合いをつけて、かつての悲劇を最小限にとどめようと努力した。そして、とてつもない豊かで平和な時代が到来した。
先進国においては、生存への不安が最小化した。
生存と生殖という2つの目的のうち、生存問題が解決され、生殖が人間の生きる唯一にして最大の目的となった。
そうだな。たしかに自分の人生を考えてみても、生存を意識しなければならない状況にはなかったな。75年前、17歳だった父や母は、おそらく生存を強く意識していたろうけどね。おかげで私は、生殖のみを最大の目的として生きてくることが出来たわけだ。
なんかそう考えると、自分がただの性器になったようで、気分悪い。


受精卵が子宮に着床して8週から、Y染色体を持つ胎児のテストステロンが急激に増加するんだそうだ。これで、男の子と女の子の違いが始まるんだそうだ。18週にかけて小さな睾丸から高レベルのテストステロンが分泌され、子宮などの生殖器の発達が抑制され、男の子脳を持った子どもが生まれてくる。
このテストステロンこそ、男性ホルモンだそうだ。
さらにこれが、思春期に急増するんだそうだ。もうこうなると、たまらない。テストステロンは性欲に関係し、助成にも分泌されるものの、男性のそれは、助成の100倍だそうだ。著者の橘玲さんの言い方が良い。
「高濃度の性ホルモンに“酩酊”することで、男は思春期以降、セックスのことしか考えられなくなる」
たしかにそうだった。
おもしろい本やマンガを読んでいるか、サッカーやってるか、それ以外は女の子のことばかりを考えていた。ソフト部に気になる女の子がいたんだけど、サッカー部で練習していても、同じ校庭で練習しているから、その子が目に入っちゃうと、もうたまらない。
ドーパミンは情熱的な恋のホルモン。ドーパミンがもたらすものは、快感ではなくて、快感の予感なんだそうだ。快感をなんとしても手に入れようという強烈な衝動。
私は我慢できずに、夜の中にかけだした。その窓に明かりがついているのを見るために。あの時、ドーパミンが大量に分泌されていたんだな。
ノルアドレナリンは、驚きや興奮のホルモン。その子と隣の席なんかなろうものなら、ノルアドレナリンの出っぱなし状態ってことか。
セロトニンは気分を安定させる幸福ホルモン。ところが、ドーパミンはセロトニンレベルを下げる作用があり、幸福感から一気に絶望の淵に、そしてなんとしても手に入れようと、衝動ばかりが強くなる。
恋愛でドーパミンが大量に分泌される状態は、半年くらいしか続かないんだそうだ。その後は、女性には愛と信頼のホルモンであるオキシトンが分泌されて恋人や子どもへの愛着を強め、女性にはメイドガードホルモンであるバソプレッシンが分泌されて女性を独占したい思いを強める。
“激しさが愛”という季節は、こうして過ぎるわけだな。
あの“恥ずかしきことのかずかず”は、これらの恋愛ホルモンに踊らされていたわけか。まあ、仕方がないか。遺伝子複製のための乗り物でしかない私なんだから。・・・でも、一様、成功したからね。
あの“恥ずかしきことのかずかず”は、どうやら恋愛ホルモンの仕業だったようだ。
すべての生き物は、生存と聖職に最適化されている。リチャード・ドーキンスと言う人は、著書『利己的な遺伝子』で、私たちは遺伝子の複製のための乗り物に過ぎないとまで言っているそうだ。腹が立つ言い方だけど、たしかにそうだ。遺伝子の複製に成功したから、今、私はここにいるわけだ。遺伝子の複製に失敗したものは、存在できないんだから。
遺伝子の複製には生殖が必要だけど、生存が確保されなければ生殖にはたどり着かない。そりゃ、卵を産みに川をさかのぼってくる鮭を見ればたしかにその通りだな。生きて、故郷の川にたどり着いて、ようやく生殖だからね。
人類の歴史を考えたって、今は、人が生まれて、男であれ女であれ成長して、巡り合って、生殖して、父親母親として子どもを育て上げて、人生をまっとうして死ぬという人生が、まあ、先進国では当たり前になっている。
だけどそれはごく最近のことで、人類の歴史の大半は、飢餓との戦いだった。それでも子孫を残すために、男は自分でも持て余すほどのとてつもなく強い性欲を、女はとてつもなく強い我が子への愛着を持つように遺伝子を設計し直してきた。
それが、産業革命による急速な科学技術の発展で、経済的な豊かさを手に入れる国が、西洋に登場する。経済的な豊かさをめぐって、限られた資源の奪い合いが激しくなり、大きな戦争が発生した。ほんの75年前のことだ。
長谷川慶太郎さんは、《戦争と革命の20世紀》と言っていた。戦争と革命で、もの凄い数の人が死んだ。その反動で、人々は、なんとか折り合いをつけて、かつての悲劇を最小限にとどめようと努力した。そして、とてつもない豊かで平和な時代が到来した。
先進国においては、生存への不安が最小化した。
生存と生殖という2つの目的のうち、生存問題が解決され、生殖が人間の生きる唯一にして最大の目的となった。
そうだな。たしかに自分の人生を考えてみても、生存を意識しなければならない状況にはなかったな。75年前、17歳だった父や母は、おそらく生存を強く意識していたろうけどね。おかげで私は、生殖のみを最大の目的として生きてくることが出来たわけだ。
なんかそう考えると、自分がただの性器になったようで、気分悪い。
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受精卵が子宮に着床して8週から、Y染色体を持つ胎児のテストステロンが急激に増加するんだそうだ。これで、男の子と女の子の違いが始まるんだそうだ。18週にかけて小さな睾丸から高レベルのテストステロンが分泌され、子宮などの生殖器の発達が抑制され、男の子脳を持った子どもが生まれてくる。
このテストステロンこそ、男性ホルモンだそうだ。
さらにこれが、思春期に急増するんだそうだ。もうこうなると、たまらない。テストステロンは性欲に関係し、助成にも分泌されるものの、男性のそれは、助成の100倍だそうだ。著者の橘玲さんの言い方が良い。
「高濃度の性ホルモンに“酩酊”することで、男は思春期以降、セックスのことしか考えられなくなる」
たしかにそうだった。
おもしろい本やマンガを読んでいるか、サッカーやってるか、それ以外は女の子のことばかりを考えていた。ソフト部に気になる女の子がいたんだけど、サッカー部で練習していても、同じ校庭で練習しているから、その子が目に入っちゃうと、もうたまらない。
ドーパミンは情熱的な恋のホルモン。ドーパミンがもたらすものは、快感ではなくて、快感の予感なんだそうだ。快感をなんとしても手に入れようという強烈な衝動。
私は我慢できずに、夜の中にかけだした。その窓に明かりがついているのを見るために。あの時、ドーパミンが大量に分泌されていたんだな。
ノルアドレナリンは、驚きや興奮のホルモン。その子と隣の席なんかなろうものなら、ノルアドレナリンの出っぱなし状態ってことか。
セロトニンは気分を安定させる幸福ホルモン。ところが、ドーパミンはセロトニンレベルを下げる作用があり、幸福感から一気に絶望の淵に、そしてなんとしても手に入れようと、衝動ばかりが強くなる。
恋愛でドーパミンが大量に分泌される状態は、半年くらいしか続かないんだそうだ。その後は、女性には愛と信頼のホルモンであるオキシトンが分泌されて恋人や子どもへの愛着を強め、女性にはメイドガードホルモンであるバソプレッシンが分泌されて女性を独占したい思いを強める。
“激しさが愛”という季節は、こうして過ぎるわけだな。
あの“恥ずかしきことのかずかず”は、これらの恋愛ホルモンに踊らされていたわけか。まあ、仕方がないか。遺伝子複製のための乗り物でしかない私なんだから。・・・でも、一様、成功したからね。
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