めんどくせぇことばかり 『もののふの国』 天野純希
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『もののふの国』 天野純希

“もののふ”という言葉に反応して、読んでみた。

“さむらい”ではなくて、“もののふ”。“さむらい”には、どこかしら卑屈なひびきがある。朝廷や貴族に仕え、護衛者として、庭先に控えた。護衛者として控えることを、“侍ふ”と言った。ここから“さむらい”という言葉が生まれる。どこかしら卑屈なひびきが感じられるのは、そのせいだろう。

“もののふ”には、それがない。“さむらい”は、自分の意に反する戦いに臨まなければならない。いや、その前に、“自分の意”を持つことさえ認められない。その点、自分の戦う能力に持つ誇りが、“もののふ”からは感じられる。

“もののふ”の語源は、ヤマト朝廷成立当時から朝廷に使えた豪族、物部氏に由来する。豪族としては“もののべ”と呼ばれるが、“もの”を相手にする氏族と言うことだろう。人相手ではなく、“もの”相手というんだから大変。なにしろ、あちらの世界の方々だから。

というわけで、物部氏は、あちらの世界の方々に対処する氏族として、朝廷に使えた。あちらの世界に通じると言うことは、宗教を司ると言うことだけど、それは同時に、治安、つまり軍事に関わることも意味した。そこから、武勇を持って世に立つ者という意味で、“もののふ”という言葉が使われるようになったんだろう。

武士という一団は、一所懸命に自分の土地を守ろうとする開拓者が武装したことから始まった。彼らは、中央での立身をあきらめ、地方に下った元皇族、元貴族を頭領にいただいて集団化し、地方勢力としての地盤を築いていった。

なにしろ大和朝廷と、その政治システム及び権力を独占する藤原氏は、いかに地方で力を持とうが、地方勢力の土地所有は認めなかった。平氏を頭領にいただく武士集団が、源氏を頭領にいただく武士集団が、地方でいかに力をつけようが、彼らは自分の土地の正当な所有者にはなれなかった。

そんな理不尽極まりない体制に、最初に牙をむいたのが、平将門だった。この『もののふの国』という壮大な物語は、その平将門の乱から始まる。



『もののふの国』    天野純希

中央公論社  ¥ 1,980

源頼朝、足利尊氏、明智光秀、大塩平八郎、土方歳三…命を懸けた果てなき争いの先に
源平の巻
黎明の大地
担いし者
相克の水面
南北朝の巻
中興の秋
擾乱に舞う
浄土に咲く花
戦国の巻
天の渦、地の光
最後の勝利者
幕末維新の巻
青き瞳の亡者
回天は遠く
渦は途切れず




平将門は、なにか不思議な力に突き動かされるように兵を挙げ、常陸の国府が差し向けた追討軍を蹴散らしていく。これが始まりだった。しかし、将門は志半ばで藤原秀郷に敗れる。秀郷と共に将門鎮撫軍に加わった平貞盛の放った矢に眉間を貫かれて、将門は死ぬ。遠ざかる意識の中で、彼を謀反に突き動かした不思議な力から、こう言われる。

「案ずるな。お前は役割を果たした。安らかに眠るが良い」

しかし実際には、将門の首は、京都に運ばれて晒される。その首はやがて歯ぎしりを初め、不気味に笑い、地鳴りをおこし、稲妻を呼んだ。ついには、「躯つけて一戦させん。俺の胴はどこだ」と叫んで坂東に向けて飛んだそうだ。人々の意識の中では、将門は怨霊化した。

この物語は、そちらには走らない。将門を武士政権への萌芽として、次に登場するのが源頼朝ということになれば、それをもって《武士が政権を握った時代》をテーマにしていることが明らかになってくる。

さらには、楠木正成に足利高氏、足利義満から戦国末期へ飛び、徳川家康の江戸幕府開幕を経て、幕末から戊辰戦争、さらには西南戦争の終結を最終章とする。

つまりは、武士階級が、この日本を動かしていた時代を、物語の舞台としているわけだ。言わば、武士の時代を通史として、物語化しているんだな。今までにない、おもしろい取り組みだと思う。

歴史の変わり目で、けっこう、斬新な解釈が用いられている。たとえば、源頼朝の死に方、足利義満の死に方、坂本龍馬の死に方なんて、さらっと書かれているが、大胆で興味深かった。

その物語を牽引する不思議な力。その力は、歴史の要所要所に現れては、時代を“終わらせる”者に、あるいは時代に“拍車をかける”ものに、「思うがままに生きよ」と、その背中を押す。

その力は、「武士の世の中は、二つの力のせめぎ合いによって、前に進んできた」という。

二つの力とはなにか。

これに関しては、もっと深いところから考えて欲しかった。その設定によっては、物語を武士政権の時代だけじゃなく、古代から現代にいたる、もっと壮大なものに出来たんじゃないかと、ちょっと残念。

その二項対立については、・・・物語を読んでのお楽しみ。





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この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



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