『深夜食堂 21』 安倍夜郎
自分を捨てた母親が、大人になってから突然現れたら、どんなだろう。
今の私は仕事も引退した身だから、まあ、大抵のことは受け入れられるけど、大人と言っても20代の後半くらいだったら・・・。正論吐いて、理論武装とか言ってる鼻持ちならない若造だったら、どうだろう。
きっと、とち狂って暴れただろうな。
私が36歳の時に母は死んだけど、その時、母は66歳だった。母が死んだときの歳まで、もう何年でもない。なんだか変な感じだな。もう、今は、深夜食堂に通ってくるようなヘンテコな奴ら、みんな、「頑張れ、頑張れ」って、応援しているよ。
ケチャップで味をつけたチキンライス。真っ赤っかだよね。あれ、私の母は、あれがチャーハンだと思ってた。チャーハンだよって、私に食べさせた。もちろん私も、ずいぶん大きくなっても、あれがチャーハンだと思ってた。高校の山岳部で、チャーハン作ることになって、自分の間違いをはじめて悟った。
私がチャーハンに目覚めたのは、たしか桃屋だったと思うんだけど、《ちゃんとチャーハン》でチャーハンを作ってから。「これでいいんだ」と悟って、しばらくの間、チャーハン生活を続けた。《ちゃんとチャーハン》は、私を一度で悟らせてくれた。だから、一度しか買ったことがない。
なんだか、無性に、あの真っ赤は“チャーハン”が食いたいな。
チキンライスって言ったって、子どもの頃に肉屋にお使いに行かされたけど、鶏肉を買ってこいと言われた記憶がない。鶏肉を食べた記憶は、卵を取るために飼ってた鶏が、卵を産まなくなると、締めて食べちゃうんだけど、その記憶しかない。肉、豚肉だけど、肉そのものも、いつもいつも食卓に上るものでもなかった。
カレーには、ソーセージが入っていることもあった。きっとチキンの代わりにソーセージ使ってたな。よし、明日作ってみよう。
母親に、遊園地に置き去りにされて、養護施設で育った“赤井さん”は、母親のチキンライスの味を覚えていた。今はお金持ちになった“赤井さん”がテレビに出たことがきっかけで、“赤井さん”は母親に会うことになる。
深夜食堂に“赤井さん”を訪ねてきた母親を、一度はたたき出した“赤井さん”だけど、あとで自分から母親を探し出したのは、やはり、チキンライスの味を覚えていたからだろうな。



でもなぁ、男と女のことに関しては、いや、女と女、男と男でもいいんだけど、・・・実際、そういう話もあったしね。芸能界とかの特殊な世界ならいいけど、ごく一般の世界では、まだまだ厳しい思いをしている人も多いんだろうな。高校の教員をやってて、実際そういう相談を受けたし、この子はそうだろうなって思ったことも何度かある。おそらくあまり外れてない。
そうそう、男と女の話。どうにもならない性ってもんがあるからね。そういう男なり、女なりにぶつかっちゃったら、それはもう運命っていうかさ、そういうものとして受け入れるしかないね。これって相手を決めたってことは、その時点ではちっとも嘘じゃないんだもの。真剣にそう思ってるんだよね。
ただ、あとから、もっといい相手が出てきちゃっただけでね。
そういう、どうにもならないものを持っている人かどうか、見極められればいいんだけどね。若いうちは、まず無理だし、歳を取れば直るってもんでもないし。
だけど、人生をなめてかかって、いつの間にか生活が崩れ始めて、まき直そうとしても、どうにもならない奴って、本当にダメね。高校生の段階でも、すでに崩れ始めているのは、たくさんいたよ。
クズには、ちゃんと、「クズ」って言って教えてやった方がいいんだ。ダメんなりたくなかったら、しっかり学校に通って来いって。もうしばらく、待っててやるからって。
何人かは戻ってきたけど、多くの奴は戻ってこなかったな。せっかく、カレーラーメンの味を、樺山くんに教えてもらったって言うのにね。橘くんはどうやらダメだね。
いつの頃からか、生徒に本当のことなんか、とても言えない状況になっちゃった。言うと、訴えられちゃうって。
兄貴が1年ちょっとで退学で、妹は最後まで頑張ったってケースがあったな。母子家庭で、お母さんがラブホテルで働いていた。同窓会に呼ばれて妹に聞いたら、兄貴はトラックの運転してて、子どもが生まれたって。絶対、浮気とか離婚とか許さないって、言ってあるとか。
大根下ろしに揚げ玉入れて、ごはんに乗せて、めんつゆをかける。おお、これきっと、間違いないぞ。執事喫茶の奥様が教えてくれたやつね。
そばにいる人を大事にして、真っ当にやってれば、きっといい死に方が出来ると思うぞ。
今の私は仕事も引退した身だから、まあ、大抵のことは受け入れられるけど、大人と言っても20代の後半くらいだったら・・・。正論吐いて、理論武装とか言ってる鼻持ちならない若造だったら、どうだろう。
きっと、とち狂って暴れただろうな。
私が36歳の時に母は死んだけど、その時、母は66歳だった。母が死んだときの歳まで、もう何年でもない。なんだか変な感じだな。もう、今は、深夜食堂に通ってくるようなヘンテコな奴ら、みんな、「頑張れ、頑張れ」って、応援しているよ。
ケチャップで味をつけたチキンライス。真っ赤っかだよね。あれ、私の母は、あれがチャーハンだと思ってた。チャーハンだよって、私に食べさせた。もちろん私も、ずいぶん大きくなっても、あれがチャーハンだと思ってた。高校の山岳部で、チャーハン作ることになって、自分の間違いをはじめて悟った。
私がチャーハンに目覚めたのは、たしか桃屋だったと思うんだけど、《ちゃんとチャーハン》でチャーハンを作ってから。「これでいいんだ」と悟って、しばらくの間、チャーハン生活を続けた。《ちゃんとチャーハン》は、私を一度で悟らせてくれた。だから、一度しか買ったことがない。
なんだか、無性に、あの真っ赤は“チャーハン”が食いたいな。
チキンライスって言ったって、子どもの頃に肉屋にお使いに行かされたけど、鶏肉を買ってこいと言われた記憶がない。鶏肉を食べた記憶は、卵を取るために飼ってた鶏が、卵を産まなくなると、締めて食べちゃうんだけど、その記憶しかない。肉、豚肉だけど、肉そのものも、いつもいつも食卓に上るものでもなかった。
カレーには、ソーセージが入っていることもあった。きっとチキンの代わりにソーセージ使ってたな。よし、明日作ってみよう。
母親に、遊園地に置き去りにされて、養護施設で育った“赤井さん”は、母親のチキンライスの味を覚えていた。今はお金持ちになった“赤井さん”がテレビに出たことがきっかけで、“赤井さん”は母親に会うことになる。
深夜食堂に“赤井さん”を訪ねてきた母親を、一度はたたき出した“赤井さん”だけど、あとで自分から母親を探し出したのは、やはり、チキンライスの味を覚えていたからだろうな。
『深夜食堂 21』 安倍夜郎 小学館 ¥ 897 寒さの厳しい時期だからこそ心もじんわりあったっかくなるようなそんな食堂 |
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でもなぁ、男と女のことに関しては、いや、女と女、男と男でもいいんだけど、・・・実際、そういう話もあったしね。芸能界とかの特殊な世界ならいいけど、ごく一般の世界では、まだまだ厳しい思いをしている人も多いんだろうな。高校の教員をやってて、実際そういう相談を受けたし、この子はそうだろうなって思ったことも何度かある。おそらくあまり外れてない。
そうそう、男と女の話。どうにもならない性ってもんがあるからね。そういう男なり、女なりにぶつかっちゃったら、それはもう運命っていうかさ、そういうものとして受け入れるしかないね。これって相手を決めたってことは、その時点ではちっとも嘘じゃないんだもの。真剣にそう思ってるんだよね。
ただ、あとから、もっといい相手が出てきちゃっただけでね。
そういう、どうにもならないものを持っている人かどうか、見極められればいいんだけどね。若いうちは、まず無理だし、歳を取れば直るってもんでもないし。
だけど、人生をなめてかかって、いつの間にか生活が崩れ始めて、まき直そうとしても、どうにもならない奴って、本当にダメね。高校生の段階でも、すでに崩れ始めているのは、たくさんいたよ。
クズには、ちゃんと、「クズ」って言って教えてやった方がいいんだ。ダメんなりたくなかったら、しっかり学校に通って来いって。もうしばらく、待っててやるからって。
何人かは戻ってきたけど、多くの奴は戻ってこなかったな。せっかく、カレーラーメンの味を、樺山くんに教えてもらったって言うのにね。橘くんはどうやらダメだね。
いつの頃からか、生徒に本当のことなんか、とても言えない状況になっちゃった。言うと、訴えられちゃうって。
兄貴が1年ちょっとで退学で、妹は最後まで頑張ったってケースがあったな。母子家庭で、お母さんがラブホテルで働いていた。同窓会に呼ばれて妹に聞いたら、兄貴はトラックの運転してて、子どもが生まれたって。絶対、浮気とか離婚とか許さないって、言ってあるとか。
大根下ろしに揚げ玉入れて、ごはんに乗せて、めんつゆをかける。おお、これきっと、間違いないぞ。執事喫茶の奥様が教えてくれたやつね。
そばにいる人を大事にして、真っ当にやってれば、きっといい死に方が出来ると思うぞ。
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