『外国人にささる日本史12のツボ』 山中俊之
これまでの人生で、外国人と絡んだことがなかったわけじゃない。
だけど、定時制高校に入学してきた外国人の子どもたちだからな。中国人、ペルー人、フィリピン人、ブラジル人あたりが主なところかな。日本の歴史のツボを語るどころじゃないよ。その子たちに、その子たちの国の歴史を教えてあげていた。
面白かったよ。世界史が専門だからね。それなりに、世界の一回りするくらいなら、なんとかね。
そのあと、その定時制高校が廃校になってしまって、やむを得ず、全日制の高校に移ることになった。昼のお仕事から夜のお仕事に移るときはさほどでもなかったんだけど、逆に、夜のお仕事から昼のお仕事に移るのは大変だった。
定時制高校は、ある意味ギリギリのところにいる生徒たちなので、正味のところで仕事が出来た。定時制高校生としてやって良いこととやってはいけないことは、人間としてやって良いこととやってはいけないことと一致していた。だけど、全日制高校って、そうじゃないから。人間としてはやっても良いんだけど、高校生としてはやってはいけない。これがおかしなことだとは、学校の先生方も分かってないからね。
子どもじゃないから、まあ、それなりに何とかしたけどね。全日では、ちゃんと世界史を教えたよ。“ちゃんと”って言っても、ほとんど教科書通りに進めてないけどね。1学期は、大半を宗教の話に費やす。ギルガメッシュ叙事詩、エジプト神話、ギリシャ神話、旧約聖書、ニーベルンゲンの歌、日本神話、いくらでもあるからね。
それから一神教に入っていく。旧約の創世記を話しているから、けっこうスムーズに進むんだ。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教ね。そこからは、まったく今日的な問題をどんどん出していく。
ユダヤ人の迫害だって、アウシュビッツだって、ペストだって、十字軍だって、イスラム国だって、ルネサンスだって、宗教戦争だって、大航海時代だって、宗教に関わるそれなりの下地があれば、だいたい分かる。
逆に、宗教をやらずに教科書使って、“はい、世界史の授業”って、「どうやるんだろう」と思ってしまう。



その点、日本史は難しい。
一神教みたいな分かりやすい何かがない。神様って言ったって、ヤハウェも、ゴッドも、アッラーもない。「殺す勿れ」も、「盗む勿れ」もない。仏教なんて葬式の時くらいしか関わらないし、神道にしたって初詣くらいのものって人も多いだろう。自分が仏教徒であるとか、神道を信仰しているという意識の人は、そうそういない。
お寺や神社の身近さは、クリスマスほどではないって人が大半だろう。
それでも日本人には、その言動を支配する、ただならぬ信仰心がある。日本人の信仰心に関しては、第1章で触れている。
・・・
「日本人が好む日本の歴史・文化のテーマと、外国人が面白みを感じるテーマはずいぶん違う」
これがこの本のテーマ。
英雄たちの興亡っていうのは、どの地域、どの国の歴史にもそれなりにある。外国人が興味を持つのは、唯一性・独自性のある歴史や文化なんだそうだ。
ふん、それは分かるな。今の日本は、世界の中でもそれなりの影響力のある国だからね。その日本が、世界最古の王朝を持っているのはなぜ。欧米列強が世界を席巻しようとしていたとき、なぜ日本だけが西洋式の近代化に成功できたのか。江戸時代という鎖国の時期に、浮世絵や伊万里焼のような、西洋をうならせる文化を築き上げることが出来たのはなぜか。
だけど、これに応えるのって、案外簡単なことではない。
それはやはり、今の日本の歴史教育に、問題があるんだろうな。日本史っていうのは、じつはそれに応えられるようにするものじゃなきゃいけない。
日本人が持っているただならぬ信仰心っていうものを、そろそろ日本人自身が考えなきゃいけないんじゃないかな。
ちょっと気になるところもあった。“中国”や朝鮮との、歴史的な交わりに関わる部分。それから、宣教使の時代に関する認識。ちょっと捉え方が一面的に感じられた。
(朝鮮通信使のやりとりにあったような)「平和な関係を打ち破ったのが、明治以降の日本の帝国主義的な侵略」
「ローマ帝国を除くともっとも厳しいキリスト教の弾圧のなされた国」
“日本の帝国主義的侵略”なんて、朝日新聞出版だからな。キリスト教の弾圧って言ったって、じゃあ、キリシタン大名や宣教師によって、海外に売り飛ばされた日本人奴隷は、どうしてくれるんだ。
だけど、定時制高校に入学してきた外国人の子どもたちだからな。中国人、ペルー人、フィリピン人、ブラジル人あたりが主なところかな。日本の歴史のツボを語るどころじゃないよ。その子たちに、その子たちの国の歴史を教えてあげていた。
面白かったよ。世界史が専門だからね。それなりに、世界の一回りするくらいなら、なんとかね。
そのあと、その定時制高校が廃校になってしまって、やむを得ず、全日制の高校に移ることになった。昼のお仕事から夜のお仕事に移るときはさほどでもなかったんだけど、逆に、夜のお仕事から昼のお仕事に移るのは大変だった。
定時制高校は、ある意味ギリギリのところにいる生徒たちなので、正味のところで仕事が出来た。定時制高校生としてやって良いこととやってはいけないことは、人間としてやって良いこととやってはいけないことと一致していた。だけど、全日制高校って、そうじゃないから。人間としてはやっても良いんだけど、高校生としてはやってはいけない。これがおかしなことだとは、学校の先生方も分かってないからね。
子どもじゃないから、まあ、それなりに何とかしたけどね。全日では、ちゃんと世界史を教えたよ。“ちゃんと”って言っても、ほとんど教科書通りに進めてないけどね。1学期は、大半を宗教の話に費やす。ギルガメッシュ叙事詩、エジプト神話、ギリシャ神話、旧約聖書、ニーベルンゲンの歌、日本神話、いくらでもあるからね。
それから一神教に入っていく。旧約の創世記を話しているから、けっこうスムーズに進むんだ。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教ね。そこからは、まったく今日的な問題をどんどん出していく。
ユダヤ人の迫害だって、アウシュビッツだって、ペストだって、十字軍だって、イスラム国だって、ルネサンスだって、宗教戦争だって、大航海時代だって、宗教に関わるそれなりの下地があれば、だいたい分かる。
逆に、宗教をやらずに教科書使って、“はい、世界史の授業”って、「どうやるんだろう」と思ってしまう。
『外国人にささる日本史12のツボ』 山中俊之 朝日新聞出版 ¥ 1,760 外国人に関心の高い日本史のテーマは、日本人が好むそれとは大きく異なる |
その点、日本史は難しい。
一神教みたいな分かりやすい何かがない。神様って言ったって、ヤハウェも、ゴッドも、アッラーもない。「殺す勿れ」も、「盗む勿れ」もない。仏教なんて葬式の時くらいしか関わらないし、神道にしたって初詣くらいのものって人も多いだろう。自分が仏教徒であるとか、神道を信仰しているという意識の人は、そうそういない。
お寺や神社の身近さは、クリスマスほどではないって人が大半だろう。
それでも日本人には、その言動を支配する、ただならぬ信仰心がある。日本人の信仰心に関しては、第1章で触れている。
・・・
「日本人が好む日本の歴史・文化のテーマと、外国人が面白みを感じるテーマはずいぶん違う」
これがこの本のテーマ。
英雄たちの興亡っていうのは、どの地域、どの国の歴史にもそれなりにある。外国人が興味を持つのは、唯一性・独自性のある歴史や文化なんだそうだ。
ふん、それは分かるな。今の日本は、世界の中でもそれなりの影響力のある国だからね。その日本が、世界最古の王朝を持っているのはなぜ。欧米列強が世界を席巻しようとしていたとき、なぜ日本だけが西洋式の近代化に成功できたのか。江戸時代という鎖国の時期に、浮世絵や伊万里焼のような、西洋をうならせる文化を築き上げることが出来たのはなぜか。
だけど、これに応えるのって、案外簡単なことではない。
それはやはり、今の日本の歴史教育に、問題があるんだろうな。日本史っていうのは、じつはそれに応えられるようにするものじゃなきゃいけない。
日本人が持っているただならぬ信仰心っていうものを、そろそろ日本人自身が考えなきゃいけないんじゃないかな。
ちょっと気になるところもあった。“中国”や朝鮮との、歴史的な交わりに関わる部分。それから、宣教使の時代に関する認識。ちょっと捉え方が一面的に感じられた。
(朝鮮通信使のやりとりにあったような)「平和な関係を打ち破ったのが、明治以降の日本の帝国主義的な侵略」
「ローマ帝国を除くともっとも厳しいキリスト教の弾圧のなされた国」
“日本の帝国主義的侵略”なんて、朝日新聞出版だからな。キリスト教の弾圧って言ったって、じゃあ、キリシタン大名や宣教師によって、海外に売り飛ばされた日本人奴隷は、どうしてくれるんだ。
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