めんどくせぇことばかり 『青い眼が見た幕末・明治』 緒方修
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『青い眼が見た幕末・明治』 緒方修

この間、篠綾子さんの『天穹の船』っていう本を読んだ。

条約締結を求めて来日していたプチャーチンが関わってくる話だった。安政東海地震に伴う津波で大破したロシア軍艦ディアナ号に変わる外洋船を、日ロが力を合わせて築造するという話だった。なにしろ、日本には外洋を航海できる船がなかった。家康が、各藩の水軍力増強を恐れて大船建造を禁じたこと、その後、鎖国が国策とされていく状況の中で、西洋式の船を築造する技術も衰退してしまっていた。

1954年12月3日、プチャーチンの乗るディアナ号は、川路聖謨らと交渉に当たるため、伊豆下田港に入港した。すでにその年の3月に日米和親条約が結ばれている。だから交渉は、日露和親条約の締結が前提である。しかし、12月23日に安政東海地震が発生し、ディアナ号は津波で大破し、後に沈没。交渉は中断したが、日ロの協力のもと、戸田港の船大工が外洋船を作ることが決まり、50名の船員と共に出港したのが3月22日だから、いくらでも時間があったわけだ。この間に条約も締結されるし、プチャーチンの人柄もあって、和やかな交流も行なわれたそうだ。

そんな様子が、この本に取り上げられている12人の“青い眼”の、トップバッター、プチャーチンの秘書官であったゴンチャーロフの著した『ゴンチャーロフ日本渡航紀』に書かれているという。

今日紹介する『青い眼の見た幕末・明治』という本は、単に“外国人が維新期の日本をどう見たか”を紹介するだけの本じゃない。同時代の欧米がどういう状況にあったか。その中で彼らは日本をどう見たか、日本はどう関わったのかが紹介されている。

たとえばプチャーチンが来航し、日米和親条約が締結された頃、ロシアはヨーロッパでクリミア戦争を戦っていた。焦点の地であるクリミア半島は、ソ連時代にウクライナ共和国の帰属になったが、2014年のクリミア危機以来、ロシアの実効支配下にある。彼らは170年前から、あそこで揉めている。

クリミア戦争では、ロシアは、オスマン帝国を支援する英仏とも戦っていた。しかも、戦争はアジアでも行なわれている。英仏連合は、ロシアのアジアにおける拠点であるペトロパブロフスクの攻略に乗り出していた。計画は失敗するが、この戦いはプチャーチンの対日交渉と並行して行なわれていた。

だからこそ、下田じゃなくて、戸田の港だったんだな。戸田港は内陸に切れ込んだ良港というにとどまらず、その港を隠すように、港の入り口の半分を超えて、、南から北へと御浜岬が伸びていることだ。この細長く伸びた岬、おそらく砂州だろう。その内側に入ってしまえば、もう、港の外から見ることは不可能となる。つまり、かりに英仏の船が港外を通っても、御浜岬の内側で外洋船が建造されているなんてこと、気づかれずに済むわけだ。





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幕末・明治期、日本にのめり込んだ青い眼の12人が残した日本見聞記を読み解く
第1部 幕末・明治を外から見る
1 ロシア文豪が見た幕末日本―閉ざされた玉手箱 
イワン・A.ゴンチャローフ『ゴンチャローフ日本渡航記』
2 「ペリーがかんぬきを外し、ハリスが門を開けた」
タウンゼント・ハリス『日本滞在記』
3 ヒュースケン暗殺―恐怖の夜が続く 
ヘンリー・ヒュースケン『ヒュースケン日本日記』
4 美しい日本―危険な役人たち 
ラザフォード・オールコック『大君の都‐幕末日本滞在記』
5 サトウ詣での有力者たち 
アーネスト・サトウ『一外交官の見た明治維新』
6 蚕を求めてやってきたイタリア使節団 
V・F・アルミニヨン『イタリア使節の幕末見聞記』
7 小国デンマークを襲う危機 
エドゥアルド・スェンソン『江戸幕末滞在記』
8 灯台の父―地震・オヤジも恐れずどんどん進め 
リチャード・H・ブラントン『お雇い外人の見た近代日本』
9 ロシア・ナロードニキの見た明治「革命」 
レフ・I・メーチニコフ『回想の明治維新』
10 大義ばうち忘れとる今の政府ば倒す 
オーガスタス・マウンジー『薩摩反乱記』
11 近代日本医学の父 
トク・ベルツ編『ベルツの日記』
12 トラブルを恐れぬレディ・トラベラー 
イザベラ・バード『日本奥地紀行』)
第2部 幕末・明治サイド・ストーリー
「悪の枢軸」英仏の毒牙が日本に届かなかった訳
自覚的にうそをつく組織としての官僚制度
幕末暗殺あるある、恐怖の逆ロシアンルーレット
テロに脅える犬たち
イギリス残酷物語|エンゲルスが見た労働者階級の状態
ラスト・サムライの覚悟
西洋強国による東方侵略の危機―明治のベストセラー『佳人の奇遇』
ヨーロッパ植民地主義の圧力
鎖国の遅れを取り戻す「翻訳」
謀反論
日清・日露に参戦した軍医
カナダへ向かうメリーポピンズ達
鎖国が遅らせた「幻のベンガル湾海戦」










戸田港の船大工たちが建造した新たな外洋船は、プチャーチンによってヘダ号と名付けられた。ヘダ号が津軽海峡からペトロパブロフスクに回航したとき、英軍艦の追跡を受けたことを、この本が紹介している。

ヘダ号はこの時、日本で取り付けた6丁の櫓を漕いで、英軍艦を振り切ったそうだ。

そんな緊迫感の中、日本は500名のロシア兵を救助し、半年もかくまい、新たな船の建造を助けた。そう思えば、平板だった歴史に躍動感が感じられるようになる。

著者は、熊本の生まれのせいか、西南戦争に特別な思いを持っているように思われた。オーガスタ・マウンジーは西南戦争時のイギリス公使館書記官で、その様子を『薩摩反乱紀』に残した。

「七ヶ月以上の期間におけるその成果は、戦闘の激しさを示し、同時にそのロマンティックな出来事は、薩摩の指導者西郷の性格をくっきりと浮き上がらせている」と、彼は西南戦争を“ロマンティックな出来事”と呼んでいる。

薩軍は、政府の腐敗を取り上げずに暗殺計画に関する尋問を挙兵の理由に掲げ、わざわざ陸路を取って北上するという。しかも、わざわざ官軍が籠城する熊本城攻略に専念して力をすり減らす。官軍も官軍で、留守になった鹿児島に船で入っておきながら、捕虜を解放し、銃弾薬を押収すると、そのまま長崎まで引き返してしまう。

たしかにそうだな。これではまるで、儀式が予定通りに進行していくさまを見るかのようだ。薩軍にしたって、やりようはいくらでもあった。しかし、それを全部放棄して、儀式を進行させてしまっている。

「ぬれぎぬを干そうともせず子供らがなすがままに果てし君かな」

本書でも紹介されている、西郷隆盛の死を悼んだ勝海舟の歌だそうだ。

薩摩人対薩摩人という性格さえ持っていた西南戦争は、これまでどのように評価されてきただろうか。

武士の時代の完全な終焉と国民皆兵性の確立。幕藩体制との完全な決別。武装蜂起から言論活動へ、反政府運動が転換した。大東亜戦争敗退まで続く、内務省主導の官僚支配体制の確立。

西郷隆盛が、その死と共にあっちに持っていったものは、いろいろとある。“武士の時代”、“幕藩体制”、“武装蜂起”など。だけど、ほかにも持っていったものがあると言う人もいるそうだ。

「西郷が兵を挙げたとき、反政府機運は全国に充満し、自由民権主義はことごとく西郷に期待していた」と本書にあるが、自由民権の理想を掲げて、この機会を、藩閥政府を倒す最大にして最後の好機ととらえた者たちが多かった。

そういった思いを、西郷は自らの敗北によって、予定通り向こうに持って行ってしまったんじゃないか。1951年に『明治維新』を世に出した遠山茂樹は、「今日にいたるまで日本の政治に健康で強力な批判勢力をせしめない原因は、“西郷の敗北”にあるのではないかと言っているそうだ。

こういう視点は、今までまったく持ったことがなかった。面白かった。


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この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
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