その名前『シンデレラの謎』 浜本隆志
どうしたって、ディズニーのアニメ映画で見た『シンデレラ』が圧倒的だね。
いろいろな人が民話を調べて、今では世界中の民話がモチーフごとにそれを分類されているんだそうだ。なかでも、シンデレラ系の話、シンデレラ譚はヨーロッパだけでも500を越え、似た類話が多数あって、線引きすること自体が困難であるほどなんだそうだ。
現在、シンデレラ譚のもっとも古いものは、古代エジプトの「ロドピスの靴」であるという。なんと、ヘロドトスがこれに言及して、彼の著した『歴史』にも、その記載があるという。
もっと古いものが現れる可能性もあるが、とりあえず今は、それをスタートとして、単純にシンデレラ譚の地域伝播ルートが紹介されている。たとえば、ヨーロッパルート。
エジプト「ロドピスの靴」→トルコ「毛皮むすめ」→パレルモ「なつめ椰子」→イタリア「灰かぶり猫」→フランス・ペローによる「サンドリヨン」→ドイツ・グリム兄弟による「灰かぶり」→イギリス「イグサ頭巾」→アメリカ・ディズニー映画「シンデレラ」
アジアルート。
エジプト「ロドピスの靴」→アラビア「足飾り」→イエーメン「可愛いヘンナ」→ペルシャ「金の燭台」→インド「ハンチ物語」→チベット「奴隷の娘」→中国「葉限」⇔ベトナム「タムとカム」⇔ミャンマー「雨期の起こり」→朝鮮「福豆と小福豆」→日本「糠福と米福」「落窪物語」「姥皮」
あれ?私が思い出す日本のシンデレラ譚というと、最初に出てくるのは「鉢かつぎ姫」なんだけどな。それから、「落窪物語」と「糠福と米福」。「糠福と米福」というのは知らなかった。
『落窪物語』は、和製シンデレラとして有名だけど、成立は10世紀だそうだ。シンデレラの話のもとになった『サンドリヨン』が1695年、グリム兄弟の『灰かぶり』が1812年。
『落窪物語』の方が圧倒的に早い。
これは、古代においては、アジアルートの方がはるかに発展していたので、文明の伝播も早かったってことかな。さらには『落窪物語』なみにメルヘンとして洗練されている点においては、ヨーロッパでは『サンドリヨン』を待たなければならない。そうなると、『サンドリヨン』が『落窪物語』の影響を受けた可能性を考えたくなってくる。


“灰かぶり”という名前が出てくる。継母と義姉立ちからいじめられ、台所の片隅で「灰にまみれて下働き」をしなければならないヒロインの、不遇な境遇を表すという。
ただそれだけではなく、シンデレラ譚には、必ず異界からの助けが現れる。そうしてシンデレラは、表舞台で脚光を浴びることになるのだ。異界とは、人の力の及ばない世界、超能力、神、悪魔、妖精、自然現象も異界に属するという。
竈は火を扱うところ。火には特別な力があって、つまりは異界に属する。そのなれの果てである竈の灰をかぶって下働きをするヒロインは、まさに異界との接点に存在している。だからこそ、不思議な力の助力を得られたということになる。
さらに、シンデレラという名前にも奥があるという。英語名のシンデレラ=Cinderella、フランス語名のサンドリヨン=Cendrillon、ドイツ語名のアッシェンプッテル=Aschenputtel。言葉の前半にある英語のcinder、フランス語のcendre`、ドイツ語のascheには、いずれも“灰”という意味があるそうだ。
“台所の片隅で灰をかぶる哀れなヒロイン”と同時に、異界との接点に存在し、異界の助力を得られる立場を表しているんだろう。
後半の語尾は、英語ではella、フランス語でillonとなっており、これは小さなものを指す接尾語で、本来の意味は消失しているという。しかし、ドイツ語の後半、puttelは、性的な蔑称という意味を込めた「女の子」だそうだ。『サンドリヨン』では、義姉がヒロインを“灰尻っ子”と呼んでいる。ポルトガルのシンデレラ譚は、『かまど猫』といい、“尻っ子”や、“猫”は、puttel、つまり「女の子」への性的蔑称と考えて良いようだ。
それは、竈近くで灰まみれになって働く女の子というだけではなく、「灰にまみれた陰部」という侮蔑的な意味が隠されていると、筆者はいう。
たしかに、確認されているもっとも古いシンデレラ譚である『ロドピスの靴』はじめ、初期のシンデレラ譚においては、ヒロインは遊女であり、娼婦であった。それが伝播して行くに従い、遊女や娼婦という表現が消えたものの、名前の一部にその意味が隠されたということらしい。
キリスト教では、灰には汚れを浄化する力があるという考えがあり、ヒロインは灰に過去を浄化されて、王子様と結婚する。靴がピッタリ合うのは、性的和合を表しているそうだ。
どうも、中身を知れば知るほど、なまめかしい話だな。
いろいろな人が民話を調べて、今では世界中の民話がモチーフごとにそれを分類されているんだそうだ。なかでも、シンデレラ系の話、シンデレラ譚はヨーロッパだけでも500を越え、似た類話が多数あって、線引きすること自体が困難であるほどなんだそうだ。
現在、シンデレラ譚のもっとも古いものは、古代エジプトの「ロドピスの靴」であるという。なんと、ヘロドトスがこれに言及して、彼の著した『歴史』にも、その記載があるという。
もっと古いものが現れる可能性もあるが、とりあえず今は、それをスタートとして、単純にシンデレラ譚の地域伝播ルートが紹介されている。たとえば、ヨーロッパルート。
エジプト「ロドピスの靴」→トルコ「毛皮むすめ」→パレルモ「なつめ椰子」→イタリア「灰かぶり猫」→フランス・ペローによる「サンドリヨン」→ドイツ・グリム兄弟による「灰かぶり」→イギリス「イグサ頭巾」→アメリカ・ディズニー映画「シンデレラ」
アジアルート。
エジプト「ロドピスの靴」→アラビア「足飾り」→イエーメン「可愛いヘンナ」→ペルシャ「金の燭台」→インド「ハンチ物語」→チベット「奴隷の娘」→中国「葉限」⇔ベトナム「タムとカム」⇔ミャンマー「雨期の起こり」→朝鮮「福豆と小福豆」→日本「糠福と米福」「落窪物語」「姥皮」
あれ?私が思い出す日本のシンデレラ譚というと、最初に出てくるのは「鉢かつぎ姫」なんだけどな。それから、「落窪物語」と「糠福と米福」。「糠福と米福」というのは知らなかった。
『落窪物語』は、和製シンデレラとして有名だけど、成立は10世紀だそうだ。シンデレラの話のもとになった『サンドリヨン』が1695年、グリム兄弟の『灰かぶり』が1812年。
『落窪物語』の方が圧倒的に早い。
これは、古代においては、アジアルートの方がはるかに発展していたので、文明の伝播も早かったってことかな。さらには『落窪物語』なみにメルヘンとして洗練されている点においては、ヨーロッパでは『サンドリヨン』を待たなければならない。そうなると、『サンドリヨン』が『落窪物語』の影響を受けた可能性を考えたくなってくる。
『シンデレラの謎』 浜本隆志 河出ブックス ¥ 1,650 古代エジプトから日本まで、時代を超えて、なぜ世界規模で伝播したのか |
|
“灰かぶり”という名前が出てくる。継母と義姉立ちからいじめられ、台所の片隅で「灰にまみれて下働き」をしなければならないヒロインの、不遇な境遇を表すという。
ただそれだけではなく、シンデレラ譚には、必ず異界からの助けが現れる。そうしてシンデレラは、表舞台で脚光を浴びることになるのだ。異界とは、人の力の及ばない世界、超能力、神、悪魔、妖精、自然現象も異界に属するという。
竈は火を扱うところ。火には特別な力があって、つまりは異界に属する。そのなれの果てである竈の灰をかぶって下働きをするヒロインは、まさに異界との接点に存在している。だからこそ、不思議な力の助力を得られたということになる。
さらに、シンデレラという名前にも奥があるという。英語名のシンデレラ=Cinderella、フランス語名のサンドリヨン=Cendrillon、ドイツ語名のアッシェンプッテル=Aschenputtel。言葉の前半にある英語のcinder、フランス語のcendre`、ドイツ語のascheには、いずれも“灰”という意味があるそうだ。
“台所の片隅で灰をかぶる哀れなヒロイン”と同時に、異界との接点に存在し、異界の助力を得られる立場を表しているんだろう。
後半の語尾は、英語ではella、フランス語でillonとなっており、これは小さなものを指す接尾語で、本来の意味は消失しているという。しかし、ドイツ語の後半、puttelは、性的な蔑称という意味を込めた「女の子」だそうだ。『サンドリヨン』では、義姉がヒロインを“灰尻っ子”と呼んでいる。ポルトガルのシンデレラ譚は、『かまど猫』といい、“尻っ子”や、“猫”は、puttel、つまり「女の子」への性的蔑称と考えて良いようだ。
それは、竈近くで灰まみれになって働く女の子というだけではなく、「灰にまみれた陰部」という侮蔑的な意味が隠されていると、筆者はいう。
たしかに、確認されているもっとも古いシンデレラ譚である『ロドピスの靴』はじめ、初期のシンデレラ譚においては、ヒロインは遊女であり、娼婦であった。それが伝播して行くに従い、遊女や娼婦という表現が消えたものの、名前の一部にその意味が隠されたということらしい。
キリスト教では、灰には汚れを浄化する力があるという考えがあり、ヒロインは灰に過去を浄化されて、王子様と結婚する。靴がピッタリ合うのは、性的和合を表しているそうだ。
どうも、中身を知れば知るほど、なまめかしい話だな。
- 関連記事
-
- 『シンデレラの謎』 浜本隆志 (2020/10/16)
- その名前『シンデレラの謎』 浜本隆志 (2020/10/12)
- 『日本人なら知っておきたい仏教』 武光誠 (2020/10/10)
- 『女と男 なぜわかりあえないのか』 橘玲 (2020/08/31)
- 恋愛ホルモン『女と男 なぜわかりあえないのか』 橘玲 (2020/08/27)