めんどくせぇことばかり 『イタリアの引き出し』 内田洋子
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『イタリアの引き出し』 内田洋子

最初のイタリアはなんだったろう。

中学の時に読んだアレクサンダーを世界史の入り口にして、なんとそのあとミケランジェロに飛んでいったんだ。理由は、羽仁五郎の書いた『ミケランヂェロ』が家に置いてあったから。何でもよかったんだな。人より先に、人が思いも寄らない知識を持てることに喜びを感じていたから。

誰が読んだ本だったんだろう。祖父母は絶対にない。生まれと頭の中が明治の人だったからな。父もない。古いしきたりにとらわれる人ではないが、反共の姿勢は固い人だった。母には、本を読むような時間はない。叔父も考えづらい。・・・叔母だろうか。二人の叔母のうち、上の叔母なら、なんだか『ミケランヂェロ』を読んでいる姿も想像がつく。

『ミケランヂェロ』を読んで、・・・まあ、内容を覚えているわけではないが、印象に残っているのは、ミケランジェロよりも彼が活躍したフィレンツェという町についてだった。

フィレンツェをはじめとする独立自由都市では直接選挙で代表を選び、警察や司法を年が管轄。弱者の救済も行なわれていて、ブルネレスキが設計したというヨーロッパ最古の孤児院は「罪のない子らの家」と呼ばれていたというようなことが書かれていたような・・・。羽仁五郎さんはどうやら、親のない子を“孤児”なんて寂しい呼び方しか出来ない日本が好きではなかったようだ。

その後は、古代ローマから入って、ルネサンス時代のイタリアだな。当時は、中学の歴史でも、世界史に簡単に触れていた。これから授業で出てきそうな内容を、百科事典で調べて全部書きだした。分からないことは、始業前に学校に行って、先生に聞いた。先生も嫌だったらしい。

そんな世界史オタクにとって見れば、イタリアは本当に特別だな。

あまりいい思い出ではないんだけど、若い頃にフィレンツェでお金を巻き上げられた。開いたばかりの店でビールを飲みながら地図を見ていたら、お姉さんに声をかけられて、なんだか分からないけど、案内してくれるということらしい。当然のようについていき、わけが分からないまま引き回された。

それなりに楽しかったんで、夕方、ご飯をおごったら、なんだか続きがありそうな様子。鼻の下を伸ばして後を追うと、彼女は小走りに地下の店の扉の向こうに消える。私がそこに入ると、すでに彼女の姿はなく、私の目の位置に肩が盛り上がるお兄さんが二人いた。




朝日文庫  ¥ 792

イタリアの街角で著者が出合った鮮やかな一瞬一瞬を季節の彩りと共に
紙つぶて
トマトとジノリ
ある日曜日、骨董市で
ベゴニアが咲く頃
三十七個目の気持ち
夢を作る兄弟
奇数年のヴェネツィア
楽譜を焼く名人
雪山とワイン
冬の海
笑って、一年
お祝い尽くし
花屋からの贈り物
おいくつですか?
〈ほか〉




この本、『イタリアの引き出し』文庫版は、2013年に刊行されたものに加筆修正して、今年の9月に出されたものだ。

著者の内田洋子さんは、長くイタリアを拠点に活動を続けてきたジャーナリストだそうだ。この本を書いた頃は、ミラノにいたらしい。ジャーナリストといっても、政治・経済・社会・文化に関する特別な出来事を取材して、それを日本の報道機関に提供するようなジャーナリストではないようだ。

また、一般に、組織に所属するジャーナリストは、組織の都合で任地を変える。その点、内田さんはフリーのジャーナリスト。長い年月をイタリアで過ごし、イタリアに根を下ろして、内田さんの目に映ったイタリア人の日常を綴ったエッセイが多い。

登場するのは有名人でも何でもなく、内田さんの身の回りの人たち。そういう人たちとの交わりや、日々、内田さんが感じたことが、60編のエッセイに綴られている。

時には、向かいの通りに住む小学生。内田さんは、小学生に声をかけられるのか。還暦の私より、1年年長なのに。その子はね、親が不在な間、幼稚園に通う妹の世話をしなきゃいけないんだけど、友達が遊びに来たらしいんだ。それで内田さんに、「私たちが宿題をする間」妹を見て欲しいと頼むんだ。

内田さんのアパート前の広場は5本の通りが走っていて、突っ切るだけでも横断歩道を5本、往復すれば10本渡ることになるという。ある日、最初の横断歩道を渡ろうとしたとき、見知らぬ老女から声をかけられたという。「一緒に渡って下さい」って。

公園にやってきた移動パン屋でサンドイッチを買って、日当たりのいいベンチでそれを食べていたんだそうだ。すると15・6歳の女の子が来て、そこに座ってもいいか聞くんだそうだ。内田さんがお尻をずらしてあげると、そこに座って女の子は泣き始めたそうだ。内田さんはアイスクリームをおごってやったそうだ。後日、彼女がその日失恋したことが分かる。その女の子、ヴァレリアという名前なんだけど、一番登場回数が多い。

2012年の2月、空港に向かう途中のタクシーで旅行先を訪ねられ、内田さんは東京と応えた。空港行きの駅に着こうかというとき、「もうすぐ1年ですね」と運転手が言ったという。震災のことだった。タクシー運転手となる前に消防士をしていた彼は、居ても立っても居られない思いだったそうだ。そんな自分の思いを日本まで運んで欲しいと、内田さんを下ろした後、運転手はわざわざ車から降りて、無言のまま深々と日本風にお辞儀をしたそうだ。

いずれも短いエッセイだけど、そこには内田さんの見た、イタリアの日常がある。新聞やテレビのニュースで紹介されるイタリアもイタリアに違いないが、イタリア人がどんな日常を過ごしているかを知るのだったら、内田さんの書いたものを読むのが良さそうだ。


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テーマ : 読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

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この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
やられた本
























































































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