イスカンダル『地名で読み解く世界史の興亡』 宮崎正勝
まったく、松本零士はすごい。
『宇宙戦艦ヤマト』がテレビで放映されたのは、1974年だそうだ。いやもう、毎週、まさに興奮してみていた。たくさんの爆弾を打ち込まれて、地球は放射能に犯されて、人間が生きていけない状況になりつつあった。しかし、宇宙の彼方から朗報が届く。遠く離れた大マゼラン星雲のイスカンダルという星にたどり着くことが出来れば、放射能除去装置を手に入れることが出来るという。人類の運命をかけて、宇宙戦艦ヤマトが旅立つ。
猶予はあと1年。
モデルは、原爆を投下された日本じゃないか。
1974年に、“戦艦大和”をあれだけ持ち上げて、右翼扱いで弾き飛ばされなかったんだからすごい。マンガ、アニメという手法だったからこそだろうけど、そう意味で、マンガやアニメもすごい。
私は14歳の時か。中学校の3年か。おそらくその前の年だと思うけど、父に入間基地の航空ショーに連れて行ってもらった。下の兄も一緒だった。私たちはその日、埼玉の空を零式艦上戦闘機が飛ぶ姿を見て、胸をドキドキさせて興奮していた。たしかそれは、戦争中に米軍が鹵獲していたものを、飛べるようにしてお披露目したものだったと思う。
私は父にねだり、零式のポスターを買って持ち帰った。翌日、学校に持っていって友人たちに見せた。それが先生に見つかって、怒られた。「たくさん人を殺した、戦争の道具だぞ」って教えられた。取り上げられはしなかったけど、二度と学校には持っていかなかった。
兄と共有の部屋の壁に貼って、ニヤニヤ眺めた。その隣には、兄が買ってもらったヘルキャットのポスターが並んでいた。


松本零士が右翼扱いで弾き飛ばされなかったのは、おそらくいろいろな理由があるだろう。
『宇宙戦艦ヤマト』という物語が、放射能による汚染に苦しめられて追い詰められた人間が捨て身の作戦に打って出る様子は、アメリカに追い詰められた日本が真珠湾攻撃に打って出るのに似ている。そこに第二次世界大戦の終盤、海底に沈んだ戦艦大和を持ち出してくるのは、ノスタルジーをも感じさせる。
しかし、爆弾を打ち込んで地球を苦しめる相手は、が三ラス帝国の相当デスラー。その立ち居振る舞いは、ドイツ第三帝国の相当ヒトラーがモデルであることを疑わせない。日本に対して原子力爆弾を使った、アメリカを持ち出しはしなかった。
なによりも、地球を救おうとする女王スターシアを要するイスカンダルという名の惑星だ。なんというロマンチックな響きだろう。
当時は、何にも知らなかった。中学3年の頃であれば、私はすでに、『若き英雄』という、少年向けに書かれたアレクサンダー大王の伝記を読んでいる。かなり、胸を熱くして読んだ。昔のことは忘れてることが多いんだけど、なんかの感想文で、この本について書いて表彰されたから、さすがにこれは覚えている。
アレクサンダーはその東征の途上、ギリシャからインドの間に、数多くの軍事拠点を築いた。これはギリシャ風の都市で、戦争物資を運ぶ兵站としての役割を果たした。作られた数は、なんと70にもなるという。現在確認できるのは25ほどであるという。
アレクサンダーは、その軍事都市に、自らの名前を付けた。アレクサンドリアという。なんと言っても、エジプトのアレクサンドリアが有名。
アレクサンダーが熱病で死んだ後行なわれた、ディアドコイ戦争というのがある。後継者争いだ。その結果、アレクサンダーの部下だった男が、エジプト最終王朝を建てることになる。プトレマイオス朝だ。
そのプトレマイオス朝の時代にアレクサンドリアは大発展を遂げ、人口100万を超える地中海最大の商業都市になったという。「ないのは雪だけ」という言葉は、アレクサンドリアの繁栄を語った言葉だそだ。
70ものアレクサンドリアの大半は、東征の途上のペルシャ語圏、アラビア語圏に建設された。アレクサンダーは、このペルシャ語圏、アラビア語圏では、イスカンダルと呼ばれた。アレクサンドリアは、イスカンダーリアとなる。
イスカンダーリアは、シルクロードの西半分をつなぐ。そう、イスカンダルは、夢の国ガンダーラの色彩をもまとって、私たちのロマンをかき立ててやまないわけだ。
多くの人は、戦艦大和を持ち出した松本零士を攻める前に、『宇宙戦艦ヤマト』の醸し出すロマンの虜となってしまったんだろう。
『宇宙戦艦ヤマト』がテレビで放映されたのは、1974年だそうだ。いやもう、毎週、まさに興奮してみていた。たくさんの爆弾を打ち込まれて、地球は放射能に犯されて、人間が生きていけない状況になりつつあった。しかし、宇宙の彼方から朗報が届く。遠く離れた大マゼラン星雲のイスカンダルという星にたどり着くことが出来れば、放射能除去装置を手に入れることが出来るという。人類の運命をかけて、宇宙戦艦ヤマトが旅立つ。
猶予はあと1年。
モデルは、原爆を投下された日本じゃないか。
1974年に、“戦艦大和”をあれだけ持ち上げて、右翼扱いで弾き飛ばされなかったんだからすごい。マンガ、アニメという手法だったからこそだろうけど、そう意味で、マンガやアニメもすごい。
私は14歳の時か。中学校の3年か。おそらくその前の年だと思うけど、父に入間基地の航空ショーに連れて行ってもらった。下の兄も一緒だった。私たちはその日、埼玉の空を零式艦上戦闘機が飛ぶ姿を見て、胸をドキドキさせて興奮していた。たしかそれは、戦争中に米軍が鹵獲していたものを、飛べるようにしてお披露目したものだったと思う。
私は父にねだり、零式のポスターを買って持ち帰った。翌日、学校に持っていって友人たちに見せた。それが先生に見つかって、怒られた。「たくさん人を殺した、戦争の道具だぞ」って教えられた。取り上げられはしなかったけど、二度と学校には持っていかなかった。
兄と共有の部屋の壁に貼って、ニヤニヤ眺めた。その隣には、兄が買ってもらったヘルキャットのポスターが並んでいた。
『地名で読み解く世界史の興亡』 宮崎正勝 KAWADE夢新書 ¥ 968 地名の語源を探れば、世界の移りも明らかに。地名はまさに歴史の化石だった! |
松本零士が右翼扱いで弾き飛ばされなかったのは、おそらくいろいろな理由があるだろう。
『宇宙戦艦ヤマト』という物語が、放射能による汚染に苦しめられて追い詰められた人間が捨て身の作戦に打って出る様子は、アメリカに追い詰められた日本が真珠湾攻撃に打って出るのに似ている。そこに第二次世界大戦の終盤、海底に沈んだ戦艦大和を持ち出してくるのは、ノスタルジーをも感じさせる。
しかし、爆弾を打ち込んで地球を苦しめる相手は、が三ラス帝国の相当デスラー。その立ち居振る舞いは、ドイツ第三帝国の相当ヒトラーがモデルであることを疑わせない。日本に対して原子力爆弾を使った、アメリカを持ち出しはしなかった。
なによりも、地球を救おうとする女王スターシアを要するイスカンダルという名の惑星だ。なんというロマンチックな響きだろう。
当時は、何にも知らなかった。中学3年の頃であれば、私はすでに、『若き英雄』という、少年向けに書かれたアレクサンダー大王の伝記を読んでいる。かなり、胸を熱くして読んだ。昔のことは忘れてることが多いんだけど、なんかの感想文で、この本について書いて表彰されたから、さすがにこれは覚えている。
アレクサンダーはその東征の途上、ギリシャからインドの間に、数多くの軍事拠点を築いた。これはギリシャ風の都市で、戦争物資を運ぶ兵站としての役割を果たした。作られた数は、なんと70にもなるという。現在確認できるのは25ほどであるという。
アレクサンダーは、その軍事都市に、自らの名前を付けた。アレクサンドリアという。なんと言っても、エジプトのアレクサンドリアが有名。
アレクサンダーが熱病で死んだ後行なわれた、ディアドコイ戦争というのがある。後継者争いだ。その結果、アレクサンダーの部下だった男が、エジプト最終王朝を建てることになる。プトレマイオス朝だ。
そのプトレマイオス朝の時代にアレクサンドリアは大発展を遂げ、人口100万を超える地中海最大の商業都市になったという。「ないのは雪だけ」という言葉は、アレクサンドリアの繁栄を語った言葉だそだ。
70ものアレクサンドリアの大半は、東征の途上のペルシャ語圏、アラビア語圏に建設された。アレクサンダーは、このペルシャ語圏、アラビア語圏では、イスカンダルと呼ばれた。アレクサンドリアは、イスカンダーリアとなる。
イスカンダーリアは、シルクロードの西半分をつなぐ。そう、イスカンダルは、夢の国ガンダーラの色彩をもまとって、私たちのロマンをかき立ててやまないわけだ。
多くの人は、戦艦大和を持ち出した松本零士を攻める前に、『宇宙戦艦ヤマト』の醸し出すロマンの虜となってしまったんだろう。
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