めんどくせぇことばかり 『秩父の地名の謎 99を解く』 髙田哲郎
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『秩父の地名の謎 99を解く』 髙田哲郎

私の生まれた家は、秩父市の、大字下影森、字田の沢、小字薮というところにある。

影の森で、田の沢で、しかも、薮。明るいイメージは一切なし。というより、暗い森の中に流れる、ジメジメした沢沿いの薮だ。出来れば違うところに住みたいもんだ。

先日、紅葉を見に、奥武蔵の山に出かけた。大持山に登って、ウノタワという人気の場所を通るコース。いったん、武川岳という山に登り、そこから妻坂峠に下る。意味ありそうな名前の峠でしょ。畠山重忠が鎌倉に出仕するとき、いつも妻がここまで見送ってくれたことからついた名前だそうだ。

おっと。この本でも、歴史上の人物を引き合いに出した地名はたくさん出てきたんだ。そのほとんどは、後付けだって。この妻坂峠の場合は、“つま”が味噌だな。つまがつく地名というと、嬬恋、吾妻なんてのがある。どうもこれも、日本武尊に結びつけられて語られてしまうようだ。

“つま”にはものごとの端という意味がある。“つま”が“つば”からの転化なら、崖地や崩壊地形を意味する。妻坂峠から武川岳に登るにしても、大持山に登るにしても、もの凄い急坂を登ることになる。特に、武川岳と峠の間の斜面は、何カ所か崩落しかかっている場所がある。峠は秩父と反応を結ぶが、どちら側に下っても、昨年の台風19号で崩落した斜面がある。

また、“つま”には建物の、棟と直角をなす壁面を意味する場合もある。たしかに、武川岳への登りも、大持山への登りも、垂直の壁のように見えないこともない。

地名の考察って難しいな。

そうそう、その妻坂峠から大持山に登り、少し戻って大持山の肩で休んでいるときのこと。妻坂峠からエッチラオッチラ登ってきたお父さんがいて、その人と少し話した。なんだか武甲山周辺の話になって、私の生まれた家のことを話すと、「じゃあ、田の沢かい」って言うんだ。

国土地理院の地図にも載ってないし、番地にも「字田の沢小字薮」は使わないのに、知っている人がいることの驚いてしまった。年齢は私より少々上に見えた。そういうことを知ってる人と話をするのは楽しい。



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秩父の地名は、一つ一つに秩父ならではの生活や文化、歴史が深く刻まれている
赤柴―河口・川沿いの水が運んだ石場から生まれた柴・芝地名
赤谷・赤屋・赤田・赤城―赤羽=赤埴と同様に赤い土の色から
阿熊―アグの付く地名の原点は“上ぐ”で高い所をいう
新志―新居・新井・荒井などと同様に、新しく開拓した土地
麻生―麻の自生地ばかりでなく、大方は湿地か大地の縁が崩れたところ
集人―狩人たちの祭祀の場
天沼―高知にある沼。または雨によって拡大縮小を繰り返す雨沼
新木―荒れ地を開墾する意味の古語「新墾」を残す地名
飯塚―飯を山盛りした形の飯盛塚を略したもの
伊古田―伊古田は類語をたどると池田にたどり着く
ほか


明治以降、合併やらなんやらで、ずいぶん地名が失われたんだろうな。上で紹介した、私の生まれた地域も字も小字も、まったく使われれてない。

大字は江戸時代の村を継承した範囲であり地名。私のところは、もともと影森村で、祖父はその助役を務めていた。祖父の時代に合併があって、だいぶ苦労をしたんだそうだが、それ以降、大字下影森になったようだ。

字は大字よりも小さい集落のまとまりにつけられたものだそうだ。集落のまとまりと言うなら、うちの場合、小字の“薮”の方がふさわしい。字の田の沢は、だいぶ広い範囲に及ぶ。押掘川に流れ込む分水を指しているような気がする。

字田の沢小字藪を飛ばして、大字下影森○○番で住所を示せるんだから、字田の沢以降には、あまり集落も人も、多くはなかったと言うことだろうな。

さて、この本。

『秩父の地名の謎99を解く』という題名だけど、おそらくこの題名でだいぶ損をしている。まるで秩父限定の“地名学”の本であるかのよう。いや、そうとしか取れない題名だと言ってもいい。

副題に、『・・・秩父が分かれば日本が分かる』とあるが、それではまったく足りない。『日本の地名の謎を解く・・・秩父の地名を例として』くらいが良かったんじゃないかな。まあ、出版元が埼玉新聞社だからね。

それにしても、7割以上が山地という日本の地形。残る3割弱の平野にしたって、いわゆる沖積平野で、河川によって運ばれた土砂が堆積して出来たもの。

水は山を滝のように駆け下って、山が終わるところで扇状地を作る。次第に斜度がなくなると、水は少しでも低いところを求めてのたうち、氾濫原となる。さらに先に三角州で海に至る。結局、平野に出たって安心な場所があるわけじゃない。

どこに住んだって安心できるわけじゃないけど、まあ、それぞれの置かれた事情によって、少しでも“まし”なところを見つけて住んだわけだ。ただ、自分の住んでいるところにどんな危険があるかは、しっかり自覚した。

火山、地震、雨に風。場所場所によって、いろいろな違いはあるだろうけど、山と沖積平野からなる日本の国土からすれば、雨は恵みであるとともに、大いなる脅威でもあった。その危険にさらされるのは自分だけでなく、子や孫も同じ。それより先の子孫も同じ。何とかその危険を知らせなければならない。

そんな思いが地名にこもった。

ならば、自分の住むところを誇る地名も良いかもしれないが、子孫に危険を知らせる地名には祖先の必死な思いがこもっていると自覚すべきだ。

この本に紹介されている話なんだけど、とある町のマンション開発業者が、市議会に働きかけて地名の変更があったんだそうだ。谷・沼・池のような埋め立て地を示唆するような地名は敬遠され、地価が下がるという理由だそうだ。その地名は“谷津”と言ったらしいが、それを“秦の杜”に変更しようという働きかけだ。

反対意見もあったものの、結局、地名は“谷津”から“秦の杜”に変わったそうだ。ご先祖様の思いは、踏みにじられた。

話は変わるけど、最近、関東平野の終わる丘陵地帯の南向きの斜面を、太陽光パネルが埋め始めた。いや、どんどん進行している。本当に、心底腹の立つ。私は今、自分がぼけたら、必ずあそこに石を投げ込むだろうと心配している。


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ジャンル : 本・雑誌

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この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
やられた本
























































































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