めんどくせぇことばかり 『ワカタケル』 池澤夏樹
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『ワカタケル』 池澤夏樹

獲加多支鹵大王

古代の英雄たちの中でも、とりわけ馴染み深い。埼玉県の行田市に、“さきたま古墳公園”というところがあって、前方後円墳8基と円墳1基、それから小円墳がいくつかあるらしい。

ここは国の特別史跡で、古墳時代を研究する上でも大変重要な遺跡でもある。中でも稲荷山古墳から発見された金錯銘鉄剣は、115文字の漢字が金象嵌で刻まれており、古代史解明の大きな手がかりでもある。

これが見つかったのは1968年なんだけど、保護処理のためにX線による調査が行なわれたのが1978年なもんだから、それまでは金錯銘が入っていることが分かっていなかった。

私は1960年生まれだから、同じ埼玉県なんだけど、子どもの頃は埼玉古墳群のことも、そこから発見された鉄剣のことも、誰からも、何か言われた記憶はない。教員試験を受けるときに、あらためて日本史を見直して、その時にはじめて知った。

行田は、江戸時代には忍、・・・“おし”と読む、忍十万石として知られ、中期には足袋の生産で広く知られるようになった。どうやら、山奥の秩父の人間にとって、明治から大正の時分は、行田こそが最も近い文明開化だったようだ。

明治35年生、影森村の滝という地区に生まれた祖母は、薮という地区の“わけえし”が好きで好きで、縁談を押しつける親に逆らって家出した。頼った先が行田の遠縁で、大正の中頃に山奥の秩父で自由恋愛をまっとうした。

祖母は恥ずかしがって、一度しかその話を聞くことができなかった。それでも、私にとっての行田という名前は、明るい将来を保証してくれるようなひびきが感じられる、そんな名前なんだ。


辛亥の年七月中、記す。ヲワケの臣。上祖、名はオホヒコ。其の児、タカリのスクネ。其の児、名はテヨカリワケ。其の児、名はタカヒシワケ。其の児、名はタサキワケ。其の児、名はハテヒ。 其の児、名はカサヒヨ。其の児、名はヲワケの臣。世々、杖刀人の首と為り、奉事し来り今に至る。ワカタケルの大王の寺、シキの宮に在る時、吾、天下を左治し、此の百練の利刀を作らしめ、吾が奉事の根原を記す也。

これが、私の憧れる行田にあるさきたま古墳群の、稲荷山古墳から発見された金錯銘鉄剣に刻まれた115文字の漢字。そこにある“獲加多支鹵大王”という漢字、「ワカタケルオオキミ」と読む。



『ワカタケル』    池澤夏樹

日本経済新聞出版  ¥ 2,200

神話から歴史への淡い時代に、森羅万象を纏った若く猛る大君が出現した
一 弑逆と決起
二 服喪の日々
三 暗殺と求婚
四 即位と統治
五 王國の構築
六 隣國と大國
七 文字の力
八 天と空
九 時は流れゆく


著者の池澤夏樹さんは、2014年に『古事記』の現代語訳を出している。

原文の力のある文体を生かしたストレートで斬新な訳と、大きな評価を受けたらしい。 まったく、『古事記』そのものが、もの凄い物語である。 のっけから、イザナギ・イザナミは“共寝”によって国を作り、神々を生み出していくわけだ。 それを“原文を生かしたストレートな”訳とは、いったいどんなものだろう。 機会があれば、読んでみようか。

その本を前提にして、『ワカタケル』という物語が生まれたようだ。

“原文を生かしたストレートな”訳は、どうやら『ワカタケル』にも反映されているようだ。 読み始めた最初に感じたのは、「ちょっと、おどろおどろしすぎるんじゃないか」と言うことだった。

淡泊な私には、どうにも、くどすぎる、・・・申し訳ないが、そう感じてしまった。

ただ、さまざまな形で、雄略天皇に関する逸話、エピソードが、いろいろなところに、おそらく余すことなく組み込まれていた。 それが、雄略天皇の性格を裏付けていて、物語に奥行きを加えているように思われた。

なかでも、万葉集の冒頭を飾る雄略天皇の歌。

籠もよ  み籠持ち 掘串もよ み掘串持ち この岳に 菜摘ます兒 家聞かな 告らさね そらみつ大和の国は おしなべて我こそ居れ しきなべて 我こそ座せ 我にこそは告らめ 家をも名をも

この歌が詠まれた状況が、物語に組み込まれている。それが、まさに、そうではなかったかと思わせられる状況に思えた。

たしかに、雄略天皇は、稲荷山古墳の鉄剣と、江田船山古墳の鉄刀から、考古学的に実在が確認された、最古の天皇である。 同時に記紀の記述からも、たんなる豪族連合だった大和朝廷を、葛城氏や吉備氏と言った有力豪族の力を削いで、天皇を中心とする体制に変えていった天皇でもあった。

その分、反発も多く、それを封じるために強権を振るうことも少なくなかったようだ。 それでなくても、皇位を確実にするためには肉親さえ容赦なく手にかけた。 反抗する豪族を誅伐し、周囲の者に恐れられることを好んだ。

雄略につけられた大悪天皇というあだ名を、なんと読むか分かるだろうか。 「はなはだあしきすめらみこと」と読むそうだ。

さてこの本、私にはちょっと油っこすぎる感じたしたけど、雄略天皇がより身近になったのは、間違いない。



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ジャンル : 本・雑誌

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この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。



中学1年で読んだと思うんだけどな。アレクサンダーの伝記。夏休みの読書感想文で郡市の大賞を取ったんだ。「アレクサンダーによって異なる国や民族が一つの領域にまとめられたように、いつかこの世界も・・・」・・・なんてことを書いた。なんだか、アメリカがやろうとしてるよね。・・・当時はそれがいい事のように思ってた。



高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。



今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
やられた本


























































































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