共感力『スマホを捨てたい子どもたち』 山極寿一
人間の女は、どんどん子どもを産む必要があったのか。
生後1年で乳離れする人間の赤ちゃんは、他の霊長類に比べても、授乳期間が短いんだそうだ。ゴリラの乳離れは、なんと4年だって。チンパンジー5年?オランウータン7年?
いよいよ離乳するタイミングは、すでに永久歯が生えて、大人と同じものを自立して食べられるようになってなんだって。人間の子どもも、永久歯が生えるようになるのは、小学校に上がる頃だよね。だったら、それまでおっぱい飲んでてもおかしくないわけか。
それが都合が悪いから、1年で乳離れするようになった。何が都合悪かったのか。
それもやはり、熱帯雨林からサバンナに出たことに関わってくると言う。肉食獣は、捕まえやすい子どもを狙うんだな。“ダーウィンが来た”とかで、肉食獣の狩りの様子を見てもそうだ。インパラの子どもが狙われてた。
サバンナに出てみたら、肉食獣が人間の子どもを狙って襲うようになったんだ。子どもがどんどんやられるから、どんどん産み増やす必要があったわけだな。
肉食獣に狙われやすい動物は、多産によってそれを補うんだそうだ。人間は一度にたくさん生むという性質を備えていないので、出産期間を短くするしかない。お母さんはお乳が出ると排卵が抑制されちゃうので、次の子どもを早く産む必要の生じた人間のお母さんは、離乳を早めることによって乳の出を止め、排卵を促したんだ。
だから、可能かどうかと言えば、人間のお母さんは、毎年子どもを産むこともできるわけだ。10人以上産み育てることも、不可能ではない。私の祖母は10人産んでいる。3人は子どもの間に亡くなったらしい。昭和前半の話だ。そんなに前のことじゃない。捕食されなくても、子どもが病気で死ぬのは珍しいことじゃなかったんだろうな。・・・戦争の時代でもあったしね。
実は私、兄と弟が同じ学年になっちゃうので、誕生日をずらした友人がいた。友人は弟の方。3月最後の生まれなのに、4月生まれになってるの。私は3月下旬の生まれだから、彼とはほぼ1年の差があった。その差を逆転できたのは、第二成長期に入ってからだな。
大人になると200キロにもなるゴリラが、生まれるときは1.6キロくらいしかないんだそうだ。人間は3キロくらい。人間の方が大きく生まれるんだ。だけど、そこからの成長が違う。ゴリラはどんどん大きくなって、5歳にもなれば50キロを超えるそうだ。人間だと、5歳児の平均体重は17キロ。ずいぶん差をつけられる。
人間の子どもは、身体の成長が遅い。
鹿なんて、生まれてすぐに4本足で立ち上がって、母鹿の乳に吸い付いていくって言うのにね。これは、人間は身体の成長を後回しにして、脳の成長を優先しているからなんだって。
人間は直立二足歩行をしたことによって、骨盤の形が変化し産道の大きさが制限されてしまった。そのため、胎児の状態で脳を大きくしてから生むことができない。だから、生まれてから急激に脳を大きくしなきゃいけなくなった。・・・身体の成長を後回しにしてまで。
成人でも摂取エネルギーの20%が脳に供給されているんだそうだ。赤ちゃんの場合はなんと、45~80%のエネルギーが脳に送られる。すごいな。身体の成長を犠牲にして、脳を発達させているのか。
頭でっかちで、身体の成長が遅い子どもが1歳くらいになると、母親は次の出産のためにその子から離れてしまう。まだ、その子は自力で生きていける状態にはない。だから、おばあちゃんやおじいちゃん、兄姉がいれば兄姉が、あるいはおばさんやおじさんが、みんなで子どもを育てるわけだな。
赤ん坊が泣いたら、みんな放っておけなくて、赤ん坊のところに行って抱っこして、あやしてあげる。自分の時間を犠牲にして、赤ん坊のために奉仕する。
そういう行為を通して、人間は共感力を高めてきたんだな。
でも、今、そういう人間同士の付き合いって、ずいぶん薄くなってしまっている。親類縁者や地域との付き合いも、父母の世代とは比べものにならない。それでも私の世代までは保たれているが、子どもの世代は、かなり限定されたものになってくるはず。
各段階の成長過程で、世間との付き合い方の作法の難しさに、いつも絶望的に悩んでいた。大人になってからだってそうだ。一度、父に聞いたことがある。「いつ頃、人付き合いに自信が持てた?」って。
そしたら、「自分の父親の葬式を出した時だ」と言っていた。これはびっくり。私が22歳の時。父はすでに50代。あの世故に長けた父にして、悩みながら世の中を渡ってきたのか。だけどその分、共感力の高い人だった。
新しい男の思いをつなぎ止めるために、母親が子どもを虐待をしたり、男による虐待を放置したりする事件が起きる。男の行為は思慮のかけらもない生物学的なものだが、母親の行為は思慮深いが生物的母性のかけらもないものだ。
面倒くさい思いをしながら、恥をかきながら、世間との付き合い方を学んでいく道を、人間は多くの犠牲の上に築き上げてきたんだろうに。
生後1年で乳離れする人間の赤ちゃんは、他の霊長類に比べても、授乳期間が短いんだそうだ。ゴリラの乳離れは、なんと4年だって。チンパンジー5年?オランウータン7年?
いよいよ離乳するタイミングは、すでに永久歯が生えて、大人と同じものを自立して食べられるようになってなんだって。人間の子どもも、永久歯が生えるようになるのは、小学校に上がる頃だよね。だったら、それまでおっぱい飲んでてもおかしくないわけか。
それが都合が悪いから、1年で乳離れするようになった。何が都合悪かったのか。
それもやはり、熱帯雨林からサバンナに出たことに関わってくると言う。肉食獣は、捕まえやすい子どもを狙うんだな。“ダーウィンが来た”とかで、肉食獣の狩りの様子を見てもそうだ。インパラの子どもが狙われてた。
サバンナに出てみたら、肉食獣が人間の子どもを狙って襲うようになったんだ。子どもがどんどんやられるから、どんどん産み増やす必要があったわけだな。
肉食獣に狙われやすい動物は、多産によってそれを補うんだそうだ。人間は一度にたくさん生むという性質を備えていないので、出産期間を短くするしかない。お母さんはお乳が出ると排卵が抑制されちゃうので、次の子どもを早く産む必要の生じた人間のお母さんは、離乳を早めることによって乳の出を止め、排卵を促したんだ。
だから、可能かどうかと言えば、人間のお母さんは、毎年子どもを産むこともできるわけだ。10人以上産み育てることも、不可能ではない。私の祖母は10人産んでいる。3人は子どもの間に亡くなったらしい。昭和前半の話だ。そんなに前のことじゃない。捕食されなくても、子どもが病気で死ぬのは珍しいことじゃなかったんだろうな。・・・戦争の時代でもあったしね。
実は私、兄と弟が同じ学年になっちゃうので、誕生日をずらした友人がいた。友人は弟の方。3月最後の生まれなのに、4月生まれになってるの。私は3月下旬の生まれだから、彼とはほぼ1年の差があった。その差を逆転できたのは、第二成長期に入ってからだな。
大人になると200キロにもなるゴリラが、生まれるときは1.6キロくらいしかないんだそうだ。人間は3キロくらい。人間の方が大きく生まれるんだ。だけど、そこからの成長が違う。ゴリラはどんどん大きくなって、5歳にもなれば50キロを超えるそうだ。人間だと、5歳児の平均体重は17キロ。ずいぶん差をつけられる。
『スマホを捨てたい子どもたち』 山極寿一 ポプラ新書 ¥ 946 京大総長が語る、野生に学ぶ「未知の時代」の生き方、「ヒトの未来」 |
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人間の子どもは、身体の成長が遅い。
鹿なんて、生まれてすぐに4本足で立ち上がって、母鹿の乳に吸い付いていくって言うのにね。これは、人間は身体の成長を後回しにして、脳の成長を優先しているからなんだって。
人間は直立二足歩行をしたことによって、骨盤の形が変化し産道の大きさが制限されてしまった。そのため、胎児の状態で脳を大きくしてから生むことができない。だから、生まれてから急激に脳を大きくしなきゃいけなくなった。・・・身体の成長を後回しにしてまで。
成人でも摂取エネルギーの20%が脳に供給されているんだそうだ。赤ちゃんの場合はなんと、45~80%のエネルギーが脳に送られる。すごいな。身体の成長を犠牲にして、脳を発達させているのか。
頭でっかちで、身体の成長が遅い子どもが1歳くらいになると、母親は次の出産のためにその子から離れてしまう。まだ、その子は自力で生きていける状態にはない。だから、おばあちゃんやおじいちゃん、兄姉がいれば兄姉が、あるいはおばさんやおじさんが、みんなで子どもを育てるわけだな。
赤ん坊が泣いたら、みんな放っておけなくて、赤ん坊のところに行って抱っこして、あやしてあげる。自分の時間を犠牲にして、赤ん坊のために奉仕する。
そういう行為を通して、人間は共感力を高めてきたんだな。
でも、今、そういう人間同士の付き合いって、ずいぶん薄くなってしまっている。親類縁者や地域との付き合いも、父母の世代とは比べものにならない。それでも私の世代までは保たれているが、子どもの世代は、かなり限定されたものになってくるはず。
各段階の成長過程で、世間との付き合い方の作法の難しさに、いつも絶望的に悩んでいた。大人になってからだってそうだ。一度、父に聞いたことがある。「いつ頃、人付き合いに自信が持てた?」って。
そしたら、「自分の父親の葬式を出した時だ」と言っていた。これはびっくり。私が22歳の時。父はすでに50代。あの世故に長けた父にして、悩みながら世の中を渡ってきたのか。だけどその分、共感力の高い人だった。
新しい男の思いをつなぎ止めるために、母親が子どもを虐待をしたり、男による虐待を放置したりする事件が起きる。男の行為は思慮のかけらもない生物学的なものだが、母親の行為は思慮深いが生物的母性のかけらもないものだ。
面倒くさい思いをしながら、恥をかきながら、世間との付き合い方を学んでいく道を、人間は多くの犠牲の上に築き上げてきたんだろうに。
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