『世界の5大神話入門』 中村圭志
高校の教員をやめて、もう2年が経つ。
教科は社会、社会は地歴と公民に分かれたんだけど、社会の時代に免許を取った教員は、地歴でも公民でも教えられる。学力の高い学校だと専門教科にこだわったりするんだけど、そうすると自分の担任するクラスの授業がなかったりする。生徒指導重視の学校だと、授業の中で生徒との人間関係を作ることも大事なので、地理でも、歴史でも、現代社会でも、何でもやった。
ただ、授業をやってて楽しいのは、やはり専門科目だね。私は生徒との関係は別で作るから、担任クラスの授業がなくても、他の事情が許せば専門科目である世界史をやらせてもらっていた。
世界史を嫌がる先生が少なくなかったので、だいたい世界史もできたかな。だいたい1人2科目はやることになるんだけど、2科目の内の1科目は世界史だった。
日本史でもそうだけど、世界史の授業はいろいろな神話から始めた。メソポタミアの神話、エジプトの神話、ペルシャの神話、ギリシャ神話。ペルシャの神話のところで一神教にも言及しておくかな。そういう神話の合間合間に教科書の内容を入れていく。ただ、ごく限定的なものばかり。あまり細かいことをやっても、すぐ忘れちゃうしね。
さらに、旧約聖書の物語からユダヤ教に触れ、アレクサンダーを登場させて、ヘレニズム世界を展開させる。そこからはインドの神話に触れる。バラモン教時代から仏教の成立、ガンダーラ美術あたりまで流して、日本にも触れておく。
そのあとはローマの神話。もちろん古代ローマを絡ませて、エルサレムにイエスを登場させる。キリスト教が成立して以降は、ローマの拡大と、そこでキリスト教がどのように生き残り、西ローマが滅亡しながらも、支配的宗教に成長していく様子を紹介する。時代は中世に入っていく。
歴史の教科書っていくのは、常に時間軸が優先されている。大変馬鹿馬鹿しい話で、教科書会社の方には常々要望していたんだけど、それじゃあ歴史を勉強したことにならない。
私の授業は、メソポタミアの神話から始まって、最後の中世の入り口くらいのところまで話をすると、おそらく2学期も後半を迎える時期にさしかかる。何かしら関連があれば、どの時代にでも飛ぶからだ。
特に、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教と連なる一神教に関しては、その思想や精神性は、とてつもなく現代世界に大きな影響を与えている。
だいたい、神話について話している間は、寝る奴はいない。目をキラキラさせて聞いている。教科書の内容になると、なかなかそうはいかない。それでも少しは持つ。「鉄は熱いうちにうて」・・・時代を飛ばない手はない。
かつては、自分の興味もあるけど、授業で生徒に話をすることも前提として、いろいろな地域の神話に触れていた。
今はそうじゃない。純粋に自分の興味。神話って面白い。
なかでも、インド・ヨーロッパ語族が面白い。
もともとは黒海北岸からコーカサス山脈にかけての地域に住んでいたらしい。それが紀元前2000年頃から、おもに南下する形で移動を開始する。
小アジアに進出したヒッタイト。エーゲ海に南下したギリシャ人。カイバル峠を越えてインドに侵入したアーリア人。その一部はペルシャに国を作りイラン人となった。地中海世界を支配したローマ帝国のラテン人、アルプス以北でケルト人、4世紀に大移動を展開したゲルマン人やスラヴ人。
これがみーんな、インド・ヨーロッパ語族。英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ヒンディー語などは、みーんなインド・ヨーロッパ語族系の言語。この語族に属する言語を公用語としている国は、100を超えるという。
そして、黒海北岸からコーカサス山脈にかけての地域に住んでいた頃、当時彼らが使っていた言葉はインド・ヨーロッパ祖語と呼ばれているが、その言葉でディエーウスと言う神を崇めていた。天であるとか、光であるとかの意味があるらしい。
彼らは、その神への信仰を失わずに各地に移動して言った。その間に、言葉は次第に変化していき、インド・ヨーロッパ語族系のさまざまな言葉へと変化していった。
ラテン語では神をデウスという。日本のキリスト教を伝えた宣教師たちは、日本人に神をデウスと教えている。ギリシャ神話では最高神をゼウスと呼んだ。そう言えば、ゼウスは雷霆神だ。黒海北岸からコーカサス山脈にかけての地域に住んでいた頃、彼らが崇めたディエーウスは、天とか、光という意味だったようだが。それはおそらく、雷霆だろう。
インドのサンスクリット語にも、テーヴァという言葉がある。意味は、神だそうだ。
北欧神話に、チュルという神がいるという。ゼウス、ユピテルと同じ語源とある。ユピテルは、もとはデュウピテルで、デュウの部分だけでゼウスと同意になる。それにしても、もとのディエーウスがどうすればチュルに変わるのか。チュルと言う神を調べてみた。
北欧神話と言えばオーディンとトールくらいしか知らない。チュルというのは、オーディンの子か。かっこいい神だったらしい。軍神か。
ゲルマン祖語ではティワズ、ディワズがドイツ語のテュールに変化したようだ。テュールは、かつては神をあらわす一般名詞でもあったようだ。そういうことになると、ラテン語のデウス、サンスクリット語のテーヴァと同じと言うことになる。このテュールがチュルになる。
インド・ヨーロッパ語族の影響の大きさにびっくりだ。
先日、日本神話とギリシャ神話の類似性について書いた。日本神話の中の雷霆は、最高神という扱いこそ受けなかった。それでも“神鳴り”と表わすこともあるように、雷は神のなせるわざと考えられていた。
教科は社会、社会は地歴と公民に分かれたんだけど、社会の時代に免許を取った教員は、地歴でも公民でも教えられる。学力の高い学校だと専門教科にこだわったりするんだけど、そうすると自分の担任するクラスの授業がなかったりする。生徒指導重視の学校だと、授業の中で生徒との人間関係を作ることも大事なので、地理でも、歴史でも、現代社会でも、何でもやった。
ただ、授業をやってて楽しいのは、やはり専門科目だね。私は生徒との関係は別で作るから、担任クラスの授業がなくても、他の事情が許せば専門科目である世界史をやらせてもらっていた。
世界史を嫌がる先生が少なくなかったので、だいたい世界史もできたかな。だいたい1人2科目はやることになるんだけど、2科目の内の1科目は世界史だった。
日本史でもそうだけど、世界史の授業はいろいろな神話から始めた。メソポタミアの神話、エジプトの神話、ペルシャの神話、ギリシャ神話。ペルシャの神話のところで一神教にも言及しておくかな。そういう神話の合間合間に教科書の内容を入れていく。ただ、ごく限定的なものばかり。あまり細かいことをやっても、すぐ忘れちゃうしね。
さらに、旧約聖書の物語からユダヤ教に触れ、アレクサンダーを登場させて、ヘレニズム世界を展開させる。そこからはインドの神話に触れる。バラモン教時代から仏教の成立、ガンダーラ美術あたりまで流して、日本にも触れておく。
そのあとはローマの神話。もちろん古代ローマを絡ませて、エルサレムにイエスを登場させる。キリスト教が成立して以降は、ローマの拡大と、そこでキリスト教がどのように生き残り、西ローマが滅亡しながらも、支配的宗教に成長していく様子を紹介する。時代は中世に入っていく。
歴史の教科書っていくのは、常に時間軸が優先されている。大変馬鹿馬鹿しい話で、教科書会社の方には常々要望していたんだけど、それじゃあ歴史を勉強したことにならない。
私の授業は、メソポタミアの神話から始まって、最後の中世の入り口くらいのところまで話をすると、おそらく2学期も後半を迎える時期にさしかかる。何かしら関連があれば、どの時代にでも飛ぶからだ。
特に、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教と連なる一神教に関しては、その思想や精神性は、とてつもなく現代世界に大きな影響を与えている。
だいたい、神話について話している間は、寝る奴はいない。目をキラキラさせて聞いている。教科書の内容になると、なかなかそうはいかない。それでも少しは持つ。「鉄は熱いうちにうて」・・・時代を飛ばない手はない。
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かつては、自分の興味もあるけど、授業で生徒に話をすることも前提として、いろいろな地域の神話に触れていた。
今はそうじゃない。純粋に自分の興味。神話って面白い。
なかでも、インド・ヨーロッパ語族が面白い。
もともとは黒海北岸からコーカサス山脈にかけての地域に住んでいたらしい。それが紀元前2000年頃から、おもに南下する形で移動を開始する。
小アジアに進出したヒッタイト。エーゲ海に南下したギリシャ人。カイバル峠を越えてインドに侵入したアーリア人。その一部はペルシャに国を作りイラン人となった。地中海世界を支配したローマ帝国のラテン人、アルプス以北でケルト人、4世紀に大移動を展開したゲルマン人やスラヴ人。
これがみーんな、インド・ヨーロッパ語族。英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ヒンディー語などは、みーんなインド・ヨーロッパ語族系の言語。この語族に属する言語を公用語としている国は、100を超えるという。
そして、黒海北岸からコーカサス山脈にかけての地域に住んでいた頃、当時彼らが使っていた言葉はインド・ヨーロッパ祖語と呼ばれているが、その言葉でディエーウスと言う神を崇めていた。天であるとか、光であるとかの意味があるらしい。
彼らは、その神への信仰を失わずに各地に移動して言った。その間に、言葉は次第に変化していき、インド・ヨーロッパ語族系のさまざまな言葉へと変化していった。
ラテン語では神をデウスという。日本のキリスト教を伝えた宣教師たちは、日本人に神をデウスと教えている。ギリシャ神話では最高神をゼウスと呼んだ。そう言えば、ゼウスは雷霆神だ。黒海北岸からコーカサス山脈にかけての地域に住んでいた頃、彼らが崇めたディエーウスは、天とか、光という意味だったようだが。それはおそらく、雷霆だろう。
インドのサンスクリット語にも、テーヴァという言葉がある。意味は、神だそうだ。
北欧神話に、チュルという神がいるという。ゼウス、ユピテルと同じ語源とある。ユピテルは、もとはデュウピテルで、デュウの部分だけでゼウスと同意になる。それにしても、もとのディエーウスがどうすればチュルに変わるのか。チュルと言う神を調べてみた。
北欧神話と言えばオーディンとトールくらいしか知らない。チュルというのは、オーディンの子か。かっこいい神だったらしい。軍神か。
ゲルマン祖語ではティワズ、ディワズがドイツ語のテュールに変化したようだ。テュールは、かつては神をあらわす一般名詞でもあったようだ。そういうことになると、ラテン語のデウス、サンスクリット語のテーヴァと同じと言うことになる。このテュールがチュルになる。
インド・ヨーロッパ語族の影響の大きさにびっくりだ。
先日、日本神話とギリシャ神話の類似性について書いた。日本神話の中の雷霆は、最高神という扱いこそ受けなかった。それでも“神鳴り”と表わすこともあるように、雷は神のなせるわざと考えられていた。
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